穏やかな昼下がり、昼食作りの最中突然響いたノックの音に私は首を傾げた。 はて、誰かが来るなんて話、聞いていただろうか。 「だれ…?」 火を止めてから戸に近づいて、その向こうに声をかける。すると僅かな沈黙の後、どこか聞き慣れたような声がした。 「あーオレ、オレだよ。狼さん」 「ユウ…?」 その声に、狼であり、けれど大切な存在である彼を私は思い浮かべる。どうしたのだろう、もしかしてこの前来た時に何か忘れ物でもしたのだろうか。 「あ、ごめんね、今開けるから」 ユウだという安心感からか、私は別段深く考えることもなくかんぬきを外し戸を開けた。 その瞬間。 「むぐっ…」 「チャオ子ヤギちゃーん。オレ様狼さんだぜぇ…」 そんな声と共に押しいるように入ってきたのはユウなんかじゃなくて、見たこともないオレンジ色の髪をした狼だった。えもいわれぬ恐怖感に一斉に肌が粟立つ。 「おっと、そういえば」 狼は片手で私を床に押さえつけながら、空いているもう片方の手で器用に戸を閉めた。 「これでよし、と」 かんぬきまでかけて満足気に頷いた狼は、私を見下ろして下卑た笑みを浮かべた。 …ぞわり。全身に嫌な汗をかきながら、私は数日前にユウに言われたことを必死に思い出していた。 ーー最近森に危ないやつが出たらしい。まだこの辺いるかもしんねぇから、何か来たら気をつけろよーー 迂闊だった。ユウにあれほど注意されていたのに、私はそれをあまりに楽観視し過ぎていた。来るわけがないと、ユウは心配しすぎだと、心のどこかで思っていたのかもしれない。 「ダメだぜ〜?よく確認しないで開けちゃあ…悪い狼さんに喰われちまうだろ」 「…っ、や!」 叫ぼうとした口に突っ込まれる指。 いたい、くるしい、気持ち悪い。たすけて、たすけて。ユウ。 噛み付くというには弱々しい抵抗をやっとのことで示すと、狼は苛ついたように舌打ちした。 「うるせぇ」 指が抜かれて、その代わりに強引に重ねられた唇に思わず目を見開く。ぬるりと口内へ入ってきた熱い舌がひたすら気持ち悪かった。 唾液でべたべたになった指が私の耳を塞ぐ。汚いだとかそんな考えよりも先に、脳内に直接響いてくるような水音があまりにも生々しくて、羞恥心で死にそうだった。 やだ、たすけて。ねえ、たすけてユウ。 それだけを繰り返し考える。一時間にも二時間にも感じられるような長い時間の後、不意に唇が離れた。 伝う唾液もろくに拭えないまま無理矢理体を起こされ、床に座らされる。 「咥えろ」 それから虚ろな視界に映ったの、は。 「……!や、やっやだや…む、ん…っ」 「ちょっとでも噛んでみろ。喰うぞ」 愉しそうな声は絶望となって私の頭に染み込んでいく。生臭さに吐きそうになりながら、私は力なく頷いた。 どれくらいの時間が経ったろう。ようやく狼のそれを満足させられた頃には既に、思考がいっぱいいっぱいになっていた。髪も顔も、くさくてべたべたして。乾いたところはパリパリとして。まるで全てが他人事のように思えて、だから狼がどこからか取り出した小瓶を手に出すのもただぼんやり見つめていた。 「そこの机に手ついて、後ろ向け」 恐怖支配だろうか、もはや体は頭が命令するより先に狼の言葉に従っていた。真新しい木目を見つめながら段々と正常と異常が混じっていくのを感じる。 「ぁ、」 ひやりと冷たい何かがお尻に触れて、けれどそれすら抵抗する気力なんてなかった。 ーー何でもいい、早く終わらせて。 ぐちゅ、と嫌な音と共に走る異物感。ぬるぬるとした冷たい液が伝う感覚に背中が震えた。 「っ…」 「せま…お前もっと力抜けって。どうせいつもあいつとヤってんだろ」 あいつ。それはユウのことだろうか。だとしたら、酷い誤解だ。ユウは私にこんな乱暴なことしない。いつだって優しくて、あったかくて。 思考を飛ばしていても徐々に息は上がっていく。いつしか解されていく感覚に妙なむずがゆさを覚え始めて、そんな自分に少なからずショックを受けた。 どうしよう…何か、変だ、私。 「!っや、だめ…!」 不意に伸ばされた狼の片手が緩く勃ち上がる私自身を包んだ。情けないくらい高い声が出てしまう。 「我慢すんなよ、声」 低い囁き声ついでにぺろりと舐められる首筋。思わず熱い息が漏れた。ギリギリの理性が、プライドが、気を抜くとあっという間になくなってしまいそうで。しつこいくらいにいじってくる指先に、前も後ろも何が何だか分からないくらいぐちゃぐちゃになっていく。 頭の中が溶かされた飴みたいに、どろどろになっていく感覚。誤魔化しようのない、徐々に集まり始めた熱がたまらなく恥ずかしかった。けれどそれと同時に、どこかもどかしさも感じて。…やっぱり私、変だ。気持ち悪くて逃げたいはずなのに、どうして、こんな……。 「おー、そろそろ入んじゃね?これ」 突然あっさりと抜かれた指にホッとしたのも束の間、次の瞬間には全身を貫くような痛みが走った。 「っ!!いた、いたい!や、いた…っ!?」 悲鳴をあげる私とは裏腹に狼は荒い息をつきながら笑った。 「大人しくしてろ、って…すぐ気持ちよくしてやっから」 片方の手で私の腰を強く押さえつけて彼は言う。空いた片方は私のはだけたシャツの中へと入ってきて、小さく主張するそれを指先で摘まんだ。 「ゃ、ぁ…!」 意思に反して漏れた甘い声が僅かに残ったプライドをズタズタに切り裂いていく。まともな思考回路なんてとうに失われていて、じわじわと与えられていく快楽に頭が溺れていくのが分かった。初めはゆっくりとしていた狼の動きも、少しずつ勢いを増していく。苦しくて、でも抜かれそうになるとなにか物足りなくて、そんなあさましい反応を示す自分の身体を恥じる余裕すらなくなっていた。一箇所、良い処を突かれる度に電流が走るように快感が伝う。頭の中が真っ白になる。冷たかった液体はどちらのものとも分からぬ体温で生温くなっていて、ぶつかり合う水音が酷く扇情的だった。 「あっあっ!だめ!なんか、へん!や、だめ!でちゃう、からぁ!」 我慢できずに零れた言葉を判断する余裕すらない。ただ本能のままに声を出していた。 「いいぜ、イっちまえ…っ!」 余裕なさげな声の数秒後、一層激しさを増した狼の腰使いに堪らず、私は最後のストッパーを手放した。ぶるぶると身体を震わせて、高く、長い声をあげながら溜め込んだ熱を放出していく。 「っく、…!」 それとほぼ同時に、熱くてどろどろした狼のそれも私の中に流れ込んで来た。 ーーああ、やっぱりだめだなあ、私。 狼がそれを引き抜くのも、ぼたぼたとお尻から太ももへ、それから床へ泡立った白色透明な液体が伝うのも、全部他人事のように感じながら、ぼんやりと見つめていた。 ーーユウに、会いたい、な。 痺れていく頭の片隅で私が思っていたのは、ただそれだけだった。 130416 詩 |