昔から、わたしは知らないふりがうまい子供だった。
悪事も善事も何もかも傍観者でいるのがとても得意な子供だった。

…現在進行形で。




「馬鹿みたいね。」

「……。君、ひどいんだね。」

「酷い?可笑しいわね、だってわたしは貴方に助けてほしい、なんて頼まれていないわ。」

「助けるのは常識の範疇でしょう!?」

「常識…?っあはは!可笑しなことを云うのね、あなたの常識を押し付けないで欲しいわ。
 ねえ、面倒事に自ら巻き込まれに行くのは馬鹿か、お人好しのどちらかよ。
 それにわたしと貴方は初対面。更に言うと最近あなたには好い噂がない、その上貴方の常識ととわたしの常識は一致しなかった。
 もっといいましょうか?人が全て自分と同じだとでも思っているのかしらね、痛々しい妄想ですこと。
 貴方は助けて欲しいとすら言わなかったのに、助けてもらえるのが当たり前とでも思い込んでいるの?
 貴方の常識は、当たり前は世界の常識、当たり前とでも?違うでしょう、ねえ。
 なのに押し付けるのは辞めて頂きたいわ。それとも、なあに?わたしがあなたと侮辱したとでも?
 それにわたしは一度として貴方に対して「馬鹿みたいね。」なんて言ったわけじゃないのに、勘違いも甚だしいわね。
 早とちりもいい加減にしてほしいわ。
 え?なによあたしのこと知らないくせにー…って?
 初対面とは言ったけれど、貴方のことを知らないなんて言ってないけれどね。
 嗚呼、可笑しい。何がおかしいって?
 勿論貴方の頭よ!」

「ッアンタ!ふざけたこと言わないでよ!訳わかんないッ!!
 馬鹿じゃないの?!あたしは苛められているのよ!見てわかんないの?!
 あたしは何の罪もないのに、あたしは!」

「知らないわよ、そんなこと。言ったでしょう?わたしと貴方は初対面なのよ。」

「初対面がなによ!あたしだって知らないわよ!あたしは何もしてない!本当に何もっ!
 あたしは、あたしが、…っあたしが人の彼氏を、親友の彼氏を取るわけないのに!大体とるって何よ、ものじゃないのよ?!
 あいつら本当に馬鹿なんじゃないの!あいつがあたしのこと好きになったからって、デマでっち上げて、好き勝手うわさ流して苛めて!
 あたしが何をしたって言うのよッ!」

「へー、学校一の嫌われ者の貴方は、ただの被害者だったってわけ。でも残念ね。
 ただの言い訳にしか聞こえないもの。」

「ッ言い訳なんかじゃない!ちゃんと、ここにっ、…ほらこれ!証拠だってあるわよ!」

「どんな証拠?」

「ボイスレコーダーとDVD、写真と、中傷の手紙!これだけあれば十分でしょう?!」

「そう。ふーん、頑張って。まあ、わたしは知らないけど。」

「っなんでよ!どうしてここまでしても、誰も信じてくれないのよぉッ!!






 …助けて、よ。あたしを、助けてよ!」




「分かった。じゃあその証拠、ちょっと貸して。」

「っえ?助けて、くれるの…?」

「言ったでしょう?
 貴方は助けて欲しいとすら言わなかったのに、助けてもらえるのが当たり前とでも思い込んでいるの?≠チて。
 あなたは助けて欲しいといったじゃない。だから助けるまで。
 それに、昔から、わたしは知らないふりが、悪事も善事も何もかも傍観者でいるのがとても、…とっても得意なのよ。





 だけど、同時に、わたしはとても、理不尽なことが大ッ嫌いなのよ。」




知らないふりが巧い子供



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