ちゅ、
可愛い効果音を立てて、彼はわたしの唇にそれを押し付けた。 フレンチキス。 呼吸(いき)が止まった。
「ぇ、あ、」
「どうして、」
彼は鋭い瞳でわたしを射抜いた。
「どうして、お前には私がいるのに、お前は他の男に笑顔を向けるの?声を掛けるの?目を合わせるの?体を触らせるの?お前の優しい笑みを私だけに向けられるべきで、お前のあたたかい声は私だけが聞けばよくって、お前の愛らしい瞳は私を見つめるためだけにあって、お前の体は私以外に触れてはならないのに。どうしてこんなに簡単に許してしまうんだ、なあ。」
「っ…ん、」
ちゅう。
珍しい、滅多に嫉妬なんかしないで、物腰穏やかなあなたが。 わたしだけが嫉妬してると思ってたんだけれど。違ったのね。 でも、だめだね。ほら、わたし、あなたに怒られるほどのこと、したのに、怒られてうれしいなんて。 でも、しあわせ なの。
「私だけを見てよ、私以外は見ないで。私もお前以外見ないし、見るつもりもない、だから、ね?そうじゃないと、私、閉じ込めちゃうかも知れない。私のことはお前が、お前のことは私が一番知っていて、一番近くにいればそれでいいだろう、それいがいになにも要らないよな。ああ、お前に気安く触ったあいつら、どうしようか、どうしたい?」
「なにも、あなたいがい、なにも。」
「嗚呼、本当?今の信じちゃうよ、私、単純だから。裏切ったらどうしちゃおうか、ねえ。信じていいんだよな、信じちゃうよ。」
「しんじて、いいよ。」
「愛してる、愛してる、大好き、好き好き好き、あいしてる。」
ちゅー
上唇をなめて、下唇を噛んで。 歯ぐきや歯の溝をなぞって、でこぼこを確かめて。 舌を絡めて、食んで、蝕んで。 いったんはなれて、またくっついて、噛んで噛んで、甘く強く。 唾液を交換して、絡めて、嚥下して、飲み干して。 またはなれて、軽く触れて。 糸をつないで、切って。 両頬、おでこ、耳、鼻の頭、首筋、 手の甲、へそ、背中、肩甲骨、うなじ、足首、ふくらはぎ、ひざ小僧、 内もも、爪先、まぶた、肩、鎖骨、胸元、ひじ、くるぶし、手のひら、手首、二の腕、 キスの雨。
そうして、おいしく頂いてくださいね。
(骨の髄まで)
キスの雨
back
|