お手紙ありがとう。本屋さんから帰ってきたら、手紙が届いていてさっそく返事を書いています。 買ってきた本はね、フランの好きな絵本作家の新作と、君がおすすめしてくれた恋愛小説、一ページ読んでみたけど、なかなか面白そうだね。
君がおすすめするだけあって低俗そうな本じゃなくて、仄暗くて優しい文章だった。 男性にも人気があるらしく、レジに並んでいたら、前の高校生が買っていたよ。手紙を書いたら読んでみる。
僕ね、女の子を見ると、羽化を思い出すんだ。 女の子って、そういうところないかな。少女が変わる瞬間。僕は二回見たことあるよ。二回目は君も一緒に見たよね、 フランチェスカの姉さん、ヴェロニカの話、覚えてる?
フランチェスカとヴェロニカは年が離れていることもあってか、なかなか相容れなくて喧嘩した時。あれはフランが小学六年生で、ヴェロニカが大学二年生の時だったはず。 お姉ちゃんはあたしのことが嫌いなんでしょうって怒るフランに、ヴェロニカがそんなことないわよ、愛してるにきまってるじゃないって言い放った時、いままでの意地とか確執とか脱ぎ捨てて、素直になった彼女、きれいだったね。
一回目は…、君が、初めて世界を見た日。 あの日、空が蒼くて青くて、真夏日で、窓があけ放してあって、包帯から解放された君の目が、世界を見た瞬間。
それは、多分なによりも美しい思い出だよ。君は無垢な目で世界を見つめて微笑ったんだ。 君は、君自身のことだから、分かっていると思うけど、その瞬間が君の羽化なんじゃないのかな。
そうそう、少年にもあると思うんだ。といっても、少女は一気に変わるのに対して、少年たちは日々変わっていくよね。 毎日毎日一枚一枚。本人すら気づかないスローペースで。ゆっくりと。 フランが友達のラシードって男の子を、家に連れてきたことがあるんだけど、最初は好青年、あ、いや、好少年かな? とにかく、礼儀正しくて気が弱そうで、優しい子で。それが二日たって逢うと、また別の顔をしてるんだよ。 不思議だよね。なんというか、前より逞しくなったというか。
僕もそうだったのかな。 あ、そうだ、いいことがあったんだよ。報告するね。
親友とも呼べる友人がいるんだ。君にはまだ逢わせてないけど。名前は修平っていうんだ。気遣いができる、爽やかな人柄なんだけどなかなかの策士なんだよ。生まれつき色素が薄いのか、こげ茶の髪と眼で。肌も真白なんだ。
それで、彼に聞いてみたんだ。『僕ってどんな奴に見える?』ってね。ほんの思いつきだったんだけど、彼はこういったんだ。
『お前の隣に、あの子が寄り添って世界ができてる。』 その言葉がすごくうれしくて。 答えになってないのに変な人ね、と君は笑うかもしれない。でもね、僕は、どうしようもなく。 君が隣に居ることに、安堵したんだ。
僕のことを、僕と君のことをわかっている人がいることに、すごく安心したんだ。 僕はそれこそ生まれた時から君と一緒で、君が細胞の一つみたいになっている。この時点で一人で完結できてないよね。
あ、そうだ。ねえ、君には、僕がどう見える?
自分の思う自分と、他の人の思う自分ってかなり誤差があるんだね。面白いなあ。 ちなみに君は、僕から見ると、生まれたばかりの赤子のようだよ。君は純粋でも無邪気でもないけれど、初めて見る世界を楽しんでいるように見える。
そういえば、昔恩師の先生がいっていたんだ。世界は自分が見たいように見える、世界を美しいと思う人は、美しいって。たしか僕が、世界は残酷だけど、きれいですね、って云ったからだっけ。 ということはつまり、僕は残酷できれいなのかな。うーん、分かんないや。
あ、フランチェスカが帰ってきた。じゃあ、今日の手紙はこの辺にしようかな。
君に見える世界が優しくありますように。 また手紙だすね。お元気で。
(二月二十九日)
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なぁんだ、どこにいたって、離れられないのね。 でもね、そのことが、とっても嬉しいのよ。
ずっと、一緒に居てね!
隣り合わせで愛を知ろう
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