キスの余韻が醒めない。

芹が目を開けると、ヴァルトレードと目が合った例の部屋で立ち尽くしていた。
ああ、帰ってきた。芹はさみしくなかった。ヴァルトレードが贈った白いドレスが、答えをくれたから。

芹はくすり、と優しく笑むと、パーティー会場に戻った。
時間は芹が休んでから一時間と経っていなかった。
芹の姿をみたアリーチェが困惑するように声をかけてきた。

「あ、あんた芹よね。…ドレス、どうしたのよ。」

「アリーチェ…。うん、プレゼントなの。」

「ま、いいわ。それよりもうラストダンスよ?どうするのよ。」

「いいのよ。」

「え?」

「もう、いるから。」

アリーチェは自分が貸したドレスがどこかにいってしまったことより、親友の豹変ぶりに驚いてしまった。こんなに美しい女だったのかと思った。素直でどこかあどけない芹は、高貴で美しい女に変わっている。ここ一時間程度の間に何があったのだろうか。芹が優しく、もういる、といったことにも驚いた。ああもう何があったのよ!そういう風に詰問したくもあったが、芹の相手を見てみたい。どんな男なのだろう。
今まで芹をノーマークにしていた、まわりの男たちも芹を凝視している。


かつん。


靴の音がして、アリーチェは目を向けた。美しい男が、そこにいた。
男―…ヴァルトレードは、芹に優しく笑った。
芹も笑みを返した。

「芹。踊ってくれるか。」

「ええ、勿論よ。」


二人に見惚れ、誰もラストを踊ろうとしない中、芹とヴァルトレードは、踊った。
一カ月と一週間とちょっとを喋り倒した二人に、言葉はいらなかった。
二人を見てアリーチェは安堵した。「(なあんだ。素敵な人じゃない。)」とても嬉しそうな顔で、親友を見た後、手元にあったカクテルを飲み干して、またダリアの花のように、華やかに笑んだ。

ゆるやかに踊り続ける二人。ふと、ふたりが部屋の中央まで来たとき、踊りといったん止めた。すると、音楽が止まり、時間が止まり、世界が止まった。
二人は目を合わせてにっこりと笑うと、軽くキスをしてまた踊り始めた。音楽が始まり、時間が始まり、世界が始まった。















重ねた唇は、愛をくれた。


ラストダンスは君と


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