ふと気がつくと、白い時計は九時半を差していて、俺は風呂に入ることにした。 一階に降りて脱衣所に入り、服を脱ぐ。 風呂を暖めている間に、シャワーを浴び、髪を洗う。体を泡でこすり、流す。 暖まった風呂に入って、一呼吸置いた。
榊原が知ったらどうするんだろうか。 怒るだろうか。泣くだろうか。叫ぶだろうか。許すだろうか。逃げるだろうか。笑って誤魔化すかも知れない。
白井くん、何でもできるから、つい
榊原の言葉を思い出して歯痒くなった。あのとき、冗談めかして誤魔化せばよかったものを。 そこで、明るくしていたら記憶にも残らずに流していたかもしれないのに、あれじゃあ覚えてくださいって言っているようなもんだろ。 俺は、そんなんじゃない。 そんな万能人間みたいなことできない。料理裁縫なんてできるわけもない。 自分がもっと堅物じゃなくて、柔軟性のある性格だったらよかったのに。
ああ、なかなかどうして、性格とは変えられぬもの。 すこしうんざりした。
――――――――――――― ――――――― ―――
ピピピピ…。
「んん、…ぅう…、…起きた。眠いー」
変な擬音をいってわたしはベットから這い出した。きらきらと輝く朝日が眼に眩しい。 昨日の夜、雨が降ったみたいで、雨跡が地面に刻まれていた。窓を開けると朝のにおいがする。風が涼しい。 わたしは寝巻きから制服に着替えて、昨日準備した鞄を持ち出して階下行った。
「おーう。おはよう」
「おはようー…」
「いかにも眠いです、って顔してるなあ、おい」
「だって眠いよ…」
「さあ、起きた起きた」
「「いただきます」」
声をあわせて挨拶をし、朝食を食べる。 今日は和食で、味噌汁にふりかけご飯、鮭の西京焼きにおひたし。一時代前のご飯っぽいな。ああ、おいしい…。
時間もそんなに無いので残念だけど、少し早めにご馳走様をして、シンクに食器を運んだ。
「もう行くんだ、今日は早いじゃーん」
「まぁね、行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい」
水溜りを踏んで学校へ駆けると、きらきらと朝日が輝いた。
空は今日も青い。 今は涼しいけれど、もうすぐじりじりと日差しがやってくるんだろう。 嗚呼、夏だな。
どこかで風鈴が鳴った気がした。
日常開始
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