「え?」

「いや、なかなか頭いいし、作文とか小説とかでコンクールで賞もらってたし、あ、絵も貰ってたっけ?」

「まあ、うん」
「体育系はアレだとしても、芸術文芸に関しては悪いところはないよな、理数だって極端に悪いわけじゃないし」

「でも」

「それに、さりげなく器用だから会社でも、上手く立ち回れるだろ」

「そんな、買いかぶられても困るよ」

「いいや。お前にならできるって!頭良いしさ。むしろそんだけ持ってて何もしないところが、なんというか」

「…」

「いや、将来決まってないお前に言うのもアレだし、これはただ単に俺の僻みで悪いんだけどさ、甘えてる感じがするな」

「…否定はしないよ」

「って酷いことばっかいっててわりぃ。俺今めっちゃカッコ悪いな。…結論としては、宝の持ち腐れにならないでくれってことだわ」

「…分かってるよ」
「お前の人生だから茉莉の好きなように生きろ。ただし、あのときこうしとけばよかった、なんてカッコ悪いことにならないようにしろよー」

「了解っ」

「じゃあ、俺はもう部屋に戻るわ。課題終わってねーし。皿は洗っとけよ」

「はいはーい」

「ご馳走様でしたっと」

梓はそういって、お皿をシンクに持っていくと、軽やかに二階へ上がった。



耳に、あの言葉が残る。







お前ならできるって!頭良いし




そういう、ことか。やっとわかった。

どうして。

何故。


















――…どうして白井くんがその言葉が嫌いなのか。



期待されることのプレッシャーが、

出来て当然だという純粋な信頼が、

ほのかな嫉妬と絶大な尊敬の眼が、



こんなに、




こんなに怖いものだと知らなかった。



嗚呼、そうか。そうだったのに、わたしは、














――彼はいつだって傷ついていたのに。


白井くんはいつだって他の皆が自分に向ける期待の、嫉妬の、羨望の、尊敬の視線が怖くてたまらなかったのだろう。


もし自分が皆の期待に添えなかったら。
もしそれで失望されたら。

いつだってその不安と戦っていたのか。
白井だから出来て当たり前、というレッテルを剥がせないまま。



そうだとしたら、わたしはなんてことを言ってしまったんだろう。


視線擦傷




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