泣いた。
生まれて初めてこれでもか、ってくらい泣いた。 ただただ涙が止まらなかった。 声を押し殺すこともせず、眼をひたすらこすり、身体を折れるくらい抱きしめて、そうして泣いた。
どうして、人は死んでしまうのだろう。
どうして、それが優一さんじゃないといけなかったのだろう。
なんでわたしはこんなに切ないのだろう。
そんな考えばかりが浮かんで、
哀しくなって 苦しくなって 辛くて、 泣いた。
あのときの梓みたいに。
夕暮れの空に咆えるように。 海がわたしの叫びで包み込まれてしまうくらいに。 砂が涙でどろどろになることを望んで、わたしはひたすら泣き続けた。
何時間たったのだろうか。 気がつけば周りは真っ暗だった。いつの間にか隣にいた梓は半分くらい涙声で、
『帰ろう』
といった。彼なりの気遣いが愛おしくて、わたしは梓の服を少しつまんで立ち上がった。
<愚か者>のレッテルは涙が洗い流してくれて、浄化されたような気分になった。
「…り?…おい、茉莉?」
ハッ、と我に返ると梓がドアを開けたまんま立ち尽くしていた。 あれ、おかしいな、と思って部屋の窓から空を見上げたら夕暮れをの残り香を感じさせない、涼しげな夜が横たわっていた。
「どうした?もう晩飯の時間だぜ?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事しててさ」
「ふーん。まあ、いいけどさ。今日の晩飯は豪華だぜ!」
「もう料理学校いってパティシエになればいいのに」
「…ん、考え中だわ」
「え!本気?」
「ひでーな。おい」
くすくすと無邪気に笑う兄。 彼は昔から料理が大好きで上手だった。お菓子を作るほうが好きらしいが。 あんまり美味しいのに、何度薦めても流れていたのだが。
「気が変わったってやつ?うん。俺今そっち方面に進もうって考えててさ」
「おおー。頑張ってよー。応援する」
兄だってもう社会人になる歳なのだ。 わたしより遠い存在になるかもしれないが梓は梓だ。きっと、何歳になっても、馬鹿であったかい梓のままだから。
わたしはぼーっとしていたが、機械的に動いた身体は勝手に部屋着に着替えていた。 二人で立ち話もそこそこに、階段を下りてリビングへ向かった。
「サンキューな。ほら、今日頑張ったんだぜこれ見ろよ!」
木彫りのテーブルの上に並んでいた料理は、たしかにとても豪勢なものだった。 わたしの好物ばかりだ。えびフライに炊き込みご飯、芸の細かいサラダに自作のドレッシング。ジューサーで作ったフルーツジュースに、今日のデザートはチーズケーキだ。
一体どうやったら短時間にこれだけのことができるのかわからない。 ちなみに父と母はいつもいっしょに食事をしない、というかできない。 特別な何かがあるわけではなく、二人の職業がジャーナリストだからだ。 今は何処にいるのか皆目見当もつかない。そのおかげで梓はこんなに料理が上手いのだが。
「「頂きます」」
二人で手を合わせ声を合わせ挨拶をすると、早速梓が聞いてきた。何気ない表情だが、 伏せられた眼からは気まずさがあふれている。
「…お前は?」
「なにが」
「将来、どうすんの?」
「…わかんないな」
「だよなぁ…」
なぜかほっとした顔になる梓。
「何よその顔ー」
「いや、お前がもう将来決まってたら、今更将来見据えた俺ってカッコ悪いじゃん?」
「っぷ、あははっ、ヘンなとこ気にするよね」
「うっせーよ。で、マジでねーの?」
「恥ずかしながら全く」
「…でも、お前色々選べる立場にいるぜ」
未来交差
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