中学最後の大会が嫌な形で終わってしまった。ジワジワと暑さが迫りくる教室の窓から、青々と晴れ渡る空をぼんやりと見上げる。


「千織、最近ずっと元気ないねえ。部活ロスってやつ?」

「んー……」


三年間同じクラスだった真矢の言葉を曖昧に濁して、溜息一つ。あーあ、どんどん幸せが逃げていく。なんて。


「なになに。ダーリンの心配?」

「だーりん…?」

「影山くん」

「あいつはそんなんじゃないって…」

「あー、そういうの。少女漫画みたいでいいよね!」

「………はあ」


もう小学生のときから何十回何百回と繰り返した『そんなんじゃない』『ただの幼馴染だから』の台詞。最近は本当にそう思い込んでいる子と、そうじゃないとわかっていてからかってくる子―――真矢みたいな子に分かれている。

とはいえ悩みの種が幼馴染の影山飛雄であることに間違いはない。最後の大会、飛雄のボールを誰も打たないまま床に落ちた瞬間を思い出して胃がキリキリと痛みだす。

いつかはこうなるんじゃないかと思ってた。神様から与えられる人生のスキルポイントを全部バレーに振り分けて、コミュ力なんて皆無どころかマイナスの彼だから。

だけど悪い奴じゃないし、ただバレーのことが超馬鹿なくらい好きなだけだから。何度ぶつかり合うことになっても三年もあれば分かり合えるんじゃないかとか、僅かな希望にしがみついていた結果がこれだ。


「あー…………」

「なんかチラっと噂で聞いてるけど、男バレ大変だったみたいだね」

「ううううう…もう今から高校生活が不安……」

「やっぱ同じ学校行くの?」

「だって心配だし…お腹痛い……」

「えー。もう千織ってば影山くんのこと超好きじゃん!」

「真矢ちゃん私の話あんまり聞いてないですよね」


キラキラと瞳を輝かせる彼女を半眼で見ながらまた溜息を零す。元々友達だとかチームメイトだとか人間関係には全く疎い飛雄だけれど、さすがに今回はかなりダメージを受けている。

普段は無神経なことは言っても“王様”なんて言われるような言い方はしないのに。バレーに関してだけは譲れないものだからこそあんな風になってしまうし、幼馴染の私でさえ簡単に口出しはできない。

ああもう、頭も痛くなってきた。


「千織ってば、影山くんじゃないなら誰が好きなわけ」

「まだその話続いてたの…。別に好きな人とかいないってば」

「えー!?じゃあ好きなタイプは?一番最近好きになった人か、初恋の人教えてよ!」

「ちょ、なんで急にそんなにぐいぐい来るの?」

「だってさあ、今までなんだかんだ千織は影山くんなんだろうなって思ってたわけ。でもそんなに違うっていうなら、どんな人がいいのってなるじゃん」

「えー…なるかなあ」

「なるの!で!初恋の人は?いつ?」


ぐいぐい机から身を乗り出して問い詰めてくる真矢に、ぎゅっと眉を寄せて記憶を遡る。初恋。好きな男子。好きなタイプ。


「んー…………」

「………………」

「んんー……」

「………………」

「…………………んんん?」

「千織…もしかして……」


―――好きな人、いたことない、とか?


声を低くした真矢の目は『冗談でしょ』『そんなことあるはずないよね』と問いかけている。だけどいくら子供の頃からの記憶をひっくり返しても、好きだった男子に該当する人物に心当たりがない。

ていうか飛雄以外だとバレー部関係の男子としかほとんどしゃべらないし、バレー部の男子に対してもなんかそういう風に考えたこともなかった。そりゃ友達がサッカー部のエースがかっこいいとか、隣のクラスの男子と付き合い始めたとかそういう話は聞いていたけれど。

全部、他人事だと思ってた。飛雄がいたからだろうか、男女の友情と恋愛の違いがイマイチぴんとこないっていうか。


「………初恋、かあ」

「もう影山くんでいいじゃん。何がダメなの?」

「その妥協した感じが納得できない」


ぶうぶうと不満そうに唇を尖らせる真矢に苦笑する。彼女に言わせれば恋を知らないなんて女子失格、なのかもしれない。

でもバレー馬鹿の飛雄だって、恋なんて知らないはずだし。ていうか馬鹿だから、恋っていう字も書けないと思う。

ただの幼馴染

20190706

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