「なあ、なまえ」
「なあに黒尾くん」
「……それ、まだ終わらねえの」
「もうちょっと待って、今からデートだから」
いや、今俺と家デートしてるはずなんだけどな。俺の方を見向きもせずに答えるなまえに、ふうとため息が零れる。
別に堂々と浮気発言をされているというわけじゃない。いや、考え方によっては“あいつら”はライバルになるかもしれないが認めたくない。
「えーと、どこに行こうかな…」
「映画館とかでいいんじゃねえの」
「前回行っちゃったんだよね。二回連続は好感度下がっちゃう」
俺を座椅子のようにしてもたれるなまえの手には、研磨もよく手にしているゲーム機。カチカチと操作するなまえの後ろから画面を覗き込めば、そこには二次元の女キャラが映っている。
いわゆる、ギャルゲーというやつだ。今からなまえはこいつとデートらしい。
念のためいっておくがなまえは女だ。攻略対象というやつも女だが、そっちの気があるわけではない。
「そいつが本命か?」
「ううん、本命はあずさ。でもちょくちょく他の子とデートしとかないと、嫉妬爆弾が爆発して私のパラメーター下がっちゃうんだよね」
「なんだそれ、お前タラシかよ」
「そういうゲームだから」
「…なまえはそれの何を楽しんでんの?」
「こういうタイプのキャラは何を言えばいいのか、何を与えればいいのか…相手の心理を読み取って確実に落としていくのが楽しいかな」
これ、そういうゲームなのか?研磨はこういったゲームはしないからよくわからないが、こんな策略家みたいな顔してやるもんではないはずだ。多分。
「ま、普通に可愛い女の子キャラが好きっていうのもあるけど」
「好きなタイプは」
「黒髪ポニテ」
俺は黒髪だけどポニーテールではねえな、なんて考えてしまったことが悲しい。脳内で研磨がドン引きする表情まで想像できた。安心しろ、俺も引いてる。
「ていうか普通、そういうのって男がやるもんじゃねえの?」
「そうなのかな…?まあ、イケメン攻略するゲームもあるけどね」
「そういうのはやらねえの?」
「あー…昔は結構やってたんだけど…」
言いよどんだなまえが、初めて画面から目を離して見上げるように俺を見る。なんだよと首を傾げると、少し唇を尖らせてなまえはぽそりと呟いた。
「…今は黒尾くんいるし。必要ないから」
くっ…。今すぐ押し倒したいくらいに可愛いのに、ゲームを中断させたときの不機嫌さが恐ろしくて手が出せない。
なまえが電源を切るまであと何分だ。
夢を捨てた日
(彼女は現実に恋をした)
20140512
こうめちゃんに捧げます!