冬が急に本気を出してきた。凍てつく風に首を縮こませて歩いていると、校舎裏に見慣れた後ろ姿を見つけて私は駆け出した。
「しょーこっ!」
「…ああ、おかえりなまえ」
背中から抱き着くと、首だけ振り返った硝子の左手には学生にあるまじき一品。ふうっ…と吐息と白煙がそれぞれ違う速度で空気を色付けていく。それをなんとなく目で追いながら、私は硝子の上着のポケットに手を突っ込んだ。
「おじゃましまーす」
「うわ、あったか」
「つっっめた!」
口から飛び出すのは真逆の反応。さっきまでカイロを握り込んでいた私と違い、硝子の手は氷のように冷たい。にぎにぎと細い指先や手のひらを揉んで熱を移していく。次第にぬるくなる右手。一人きりの左手が少し寂しい。すん、と鼻を鳴らす。
「あー…硝子ちゃんの匂い……帰ってきたって感じがする」
「ヤニ臭いだけだろそれ」
「消毒液の臭いもするよ」
「……あとでファブっとく」
「ふふ。私は好きだよ」
あと、たまにお泊り会したときのお風呂上がりの硝子の匂いも好き。そう言いかけたけれどさすがに変態臭い気がして心の中だけに留めておく。
ひゅうっ、と気まぐれに吹いた冷たい風が、どうしても隙間のできる私たちの足の間を駆け抜けた。さむ。低く小さく呟いて、硝子は短くなった煙草をぐりぐりと灰皿に押し付ける。
「戻る?」
「んー…もうちょい」
するりと忍び込んでくる、芯まで冷え切った左手。甲から重ねて指先を絡めながら、その細い肩に顎下を乗せる。鍋だな。ぽつりと呟く声に、うむ、と真面目くさった声で私は頷いた。
真冬の温もり
20220130