※2人の子供が出てきます(子供の名前は出てきません)
学生のときから喧嘩ばっかりして別れただの復縁しただのやっていた及川とみょうじも、大学卒業後に結婚した。最初は“別れる喧嘩”が“離婚する喧嘩”になるんじゃないかと思っていたが、さすがにあいつらも大人になったらしい。
今では幼稚園児になる子供もいて仲良くやって―――たらよかったのになぁ。
「だから、徹はなんでいっつもそうなわけ!?」
「なまえがいちいちうるさいんだよ!だいたい――」
扉1枚隔てた向こうで繰り広げられている大喧嘩。俺、一応お前らの家に遊びに来た客なんだけど。
ソファで勝手にくつろぎながら、目の前でちょこちょこと動き回る生き物を目で追う。
「いわちゃ、これ!」
幼い子供が目をきらきらさせながら舌足らずにそう言って差し出してきたのは、1枚のDVD。ああ、これが見たいってことか。
よしよしと頷いてレコーダーに設置する。こいつも大変だよな、両親の喧嘩ってやっぱ教育によくねえと思うんだけど。
そんなことを考えながら、耳は2人の喧嘩の方に向いてしまっているのはもう悪癖だ。今回の喧嘩は及川が悪いなとか、そんな判断をしてしまってる自分にため息が出る。
「お前の父ちゃんと母ちゃん、もうちょっと仲良くすりゃいいのになぁ」
「うん?パパとママ、なかよしだよ?」
「………まぁ、お前がそう思うならいいんだけどよ」
確かにあの2人は喧嘩するほどなんとやらというか、夫婦喧嘩は犬もなんとやらというか。ただこっちに被害を及ぼすのはやめてほしい。
ああそうだ、俺に面倒事がこなければ勝手にやっててくれって感じなんだよ。なんであいつらは毎回俺を巻き込むんだ。
「はぁ………」
「いわちゃ、おつかれ?」
ため息を吐いた俺の頭にぽんと小さな手のひらが乗せられる。こいつ、ほんとにあいつらの子かよ。
大丈夫だと笑ったところで、今まで閉じられていた扉が勢いよく開いた。出てきたのは顔をむっすりと歪めた及川だ。
「聞いてよ岩ちゃん!」
「お前が悪い」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
「丸聞こえなんだよ馬鹿野郎!」
ちょうどいい場所にあったクッションを掴むと、思いきり及川の顔面に向かって投げつける。見事にヒットして間抜けな声を上げる及川にザマァと思っていれば、とてとてと小さな影が及川に近付いた。
「パパ…。ママは…?」
しょんぼりとした声に及川がきょろきょろと視線を彷徨わせる。自分が悪いって自覚があるんじゃねーか、このバカ。
「えーっと…ちょっとお部屋の方に……」
「そっかぁ……」
「お前のパパが謝りに行けば、すぐにママも出てくるよ」
「そうなの?」
きょとりと目を丸くして首を傾げる幼子に、抗議の声を上げる及川を無視して頷く。再び及川を見上げた子供は、きゅっと及川のズボンを小さな手で掴んだ。
「パパ、わるいことしたら、ごめんなさいしなきゃなんだよ」
「う……っ」
「ママにごめんなさい、してきて?」
「……っ、いってきます」
純粋無垢な子供の言葉には全く敵わないらしい。一瞬の葛藤のあと素直に頷いた及川が、しずしずと扉の向こうに消えて行く。
一方子供はくるりと振り返ったかと思うと、俺の横にちょこんと座って満面の笑みを向けてきた。
「いわちゃ、よーかいキャッチみよ!」
「お、おう……」
やっぱりこいつ、あいつらの血が入ってる気がする。なんとなくイヤな予感を覚えながら、俺はDVDレコーダーの再生ボタンを押した。
なんだかんだ
仲が良いなら、それでいいんだけどな。
20150225