新興都市ヘリオード騎士団本部内の一室で、ざわめくエアルの流れを感じ目を閉じる。あの結界魔導器、そしてカルボクラムから連行されてきたエステリーゼたち。

何事もなければいい。そう思うけれど、時間はそう残されていないのは私自身がよくわかっていた。


「この街の結界魔導器は、やはり例の物のようだな」

「ええ、間違いないわ。それもよくない状態よ」


アレクセイの言葉に頷き、眉を寄せる。

担当の魔導師たちはあれが通常の結界魔導器とは異なることに気が付かず、ここに設置することになってしまったようだ。街はほぼ完成している状態だが、私はあれの使用を許すわけにはいかない。

さらにあれはうまく調整がされていないのだろう、すでに暴走の兆しを見せている。早急に街の住民を避難させたあと、回収しなければならない。


「他の魔導師には触らせないでね。特にあの子…リタ・モルディオには」

「……彼女ならばあの魔導器を扱えるとは思うが、気に入らないのか」

「気に入らない…そうね……」


魔導器への愛はある、才能も十二分。けれどそれだけだ。

それだけでは私は彼女に何も教える気にはならない。身に余る力は、時として制御できない武器になり得るのだから。


「……そういえばクローム、カルボクラムの方であの子の“声”がしていたのだけれど何かあった?」

「魔狩りの剣に逆結界で閉じ込められてしまっていたようですが、竜使いが助けてくれたそうです。その後は何事もなく立ち去ったと、エステリーゼ様がおっしゃっていました」

「あの子も色々と心配だわ…無茶をしなければいいのだけれど…」

「あなたがそれを言いますか」


妙に辛辣な言葉に目をぱちくりとさせてクロームを見れば、すいと視線を逸らされる。その隣には苦笑を浮かべたアレクセイ。


「私、無茶なんてしていないわ」

「今のところは…だな」

「ええ、今のところはですね」


何なのだろうか、まるで息を合わせたかのように2人して。むっと唇を尖らせたところで、突然大きく地面が揺れる。

直後に感じた大きなエアルの乱れに、私はハッと目を瞠った。



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危惧していたことが予想より早く起こってしまった。暴走する結界魔導器に唇を噛んでいると、ふと目の前を人影が過ぎる。


「リタ!」

「エステリーゼ様!?」


暴走する魔導器を調整しようと試みるリタの元へと、エステリーゼが駆け寄っていく。止めようとしたときにはもう遅く、彼女は全身から光を発しながらリタの隣に行ってしまっていた。


「騎士は何をしているの!!」


確かに彼女の力があればエアルの干渉を一時的に退けることができるかもしれない。その証拠に、先程まで辛そうに俯いていたリタが再び魔導器をいじり始めている。

でももうあれは手遅れだ。このままでは2人とも無事では済まない。


「…仕方のない子たち」

「オルガ!」


私なら2人に近付ける。アレクセイの制止の声を無視してエアルの渦巻く中心へと走り出す。

調整を終えたのか喜びの表情で魔導器を見上げるリタ。けれどそんな調整とっくに無意味だ。


「2人共下がって!!」


彼女たちと魔導器の間に滑り込むと、魔導器に向かって手を翳す。魔導器が爆発したのと、全身に衝撃が走ったのは同時だった。


暴欲の蔓
(彼の声が遠くなる)

20150418


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