新山亜季、花も恥じらう高校2年生。最近ようやくクラスに馴染んできたのですが、1つ大きな悩みごとがあります。
「岩泉先輩がちっとも振り向いてくれない……」
ホームルームの時間。机に突っ伏してそう呟くと、携帯ゲームに夢中だったクラスメイトの美咲ちゃんがチラリと私の方を見た。
「岩泉先輩って、亜季ちゃんが好きな人だっけ」
「うん。すっごいアタックしてるんだけど流されてるっていうか、まともに受け取ってもらえないっていうか…そんなところも好きなんだけど!」
「ほら、亜季ちゃんって見た目のわりに残念臭するしさ。好き好き言いすぎて恋愛として見られてないんじゃない?」
「美咲ちゃんって結構ズバズバ言うんだね……」
しかもすごく痛いところを突かれた気がする。再び真剣な表情で携帯ゲームをし始めた彼女から目を逸らして、大きくため息を吐く。
「やっぱり、可愛い後輩程度にしか思われてないのかなあ…」
岩泉先輩に嫌われてはいないし、少なくとも好かれている自信はある。けれど恋愛対象として見られていない気がするというか、何かが足りないというか。
ちゃんと意識してもらうためには、真剣に告白すればいいのだろうか。でももしそれでも意識してもらえなかったり、フラれでもしたら。
「…っ、うわあああああん!私のチキン!」
「よっし、パーフェクトクリア」
「もうっ、こんなに可愛いのになんで振り向いてくれないの!でもそんなところも好き!」
「はあ…あんたのそんなとこがダメなんじゃない?」
「あいたっ」
美咲ちゃんとは違う声が聞こえたかと思えば、スパンと頭に走った衝撃。顔を上げれば丸めた紙束を持った紗恵ちゃんが、呆れた顔で私と美咲ちゃんを見下ろしていた。
「亜季、美咲、今何の時間かわかってる?」
「が、学園祭の出し物について話し合いをする時間です…」
「あ、あはは、私たちのクラスって喫茶店なんでしょ?衣装制作なら任せて」
携帯を隠しながらぐっと拳を握った美咲ちゃんに、学園祭実行委員の紗恵ちゃんが真顔で頷く。そのまま視線が私の方へと向けられて自然と背筋がぴんと伸びた。
「亜季、ちょっとお願いがあるんだけど」
「きょ、拒否権は」
「ない。あと美咲にも協力して欲しいの」
「ん?なに?」
2人そろって首を傾げれば、紗恵ちゃんが1枚のプリントを机の上に置いた。それを見て思わず読み上げる。
「青葉城西みすこんてすと…?」
「そっか!青城の学祭といえばミスコンだもんね!」
「そう。亜季はもう出場申請してあるから、美咲には亜季の衣装作りをお願いしたいの」
「え……?」
紗恵ちゃん、今何て言った?茫然と彼女を見上げれば、思いがけず真剣な瞳が私を貫いた。
「亜季は文化祭当日、その無駄にいい見た目を活かして客引き。そのあとミスコンで優勝して、さらに客を引いて欲しいの」
「え!?や、やだ!私そういうのはちょっと…!」
私はどこかの残念イケメン先輩のように愛想良くはないし、外見で注目を集めるのも好きではない。そんなの無理だと焦って訴えようとすれば、紗恵ちゃんがバンっと机を叩いた。
「亜季、あんたいつまでも好きな人に意識されなくていいの!?」
「え…あの…」
「すっごい可愛い恰好して好きな人に見せたいと思わない?可愛いって思って欲しいとは思わないの?」
「そ、それは……思う、けど…」
好きな人に可愛いと思って欲しい。そんなの当たり前だ。
客引きする代わりに可愛い恰好をさせてもらえるなら。先輩に可愛いと思ってもらえる可能性が少しでもあるなら。
きゅっと唇を引き結んで顔を上げれば、紗恵ちゃんと美咲ちゃんがにっこりと微笑んだ。
「衣装なら心配しないで!絶対可愛いって思ってもらえるような服、作ってみせるから」
「そうそう、それに他にもちゃんと作戦はあるし」
「作戦?」
何の作戦だろう。客引きかな?と首を傾げる私に、彼女は「まだ秘密」と意味ありげに微笑んだ。
あと一歩が欲しいから
(で、紗恵さんの本音は?)
(売り上げで豪華打ち上げ)
((………………))
20140701