◆必要性
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「私の歌はもう必要ないのでしょうか。」
彼はそう言った
「前になるべくお詰めくださーい」
「券をお手元に持って準備お願いいたします」
今日はST☆RISHの人気メンバートキヤの握手会
周りにはトキヤファンの子が列に並んでいる
そして私はと言うと、、トキヤファンではない
むしろST☆RISH以前にアイドルに興味がないタイプである
なのにここに居るのは、よくある友達の代わりに来た
「勿体ないから私の代わりに行ってほしい!!」
鬼の形相という言葉がピッタリとでも言うのだろうか
そんな彼女の頼みに断れず来た
来たのはいいけど握手会って何すればいいの
自分の前に並んでいる子達は
「この間の写真集よかったです」「なでなでしてもらえますかっ?」
とかそれっぽい事を言っている
私の後ろに並んでいる子達は「どうしよう順番が迫ってきたのは嬉しいけど、あー!」とか
「どうしようトキヤ様に何て言おう、頭が真っ白だよ」
「思った事をそのまま言えばいいじゃん」
などの声が聞こえた
そんな声の中に「トキヤって最近雑誌のインタビューで引退じゃないけど、
それっぽい事を仄めかしてない?」
「えー?そう?気のせいじゃないの」
とよくある噂話も聞こえてきた
うーん、思ったままの事を言えばいいのかな。
そう考えていたら私の番が来た
わお、鼻が高くてすーっとしてるしさすがアイドル
思ったことをそのまま
その結果出た私の言葉が
『歌う時 手抜いてる?』
「はい?」
天下のアイドルのトキヤも間抜け顔をしている
当の私もビックリだ
本人様の目の前で
しかも後ろにはトキヤファンだらけなのに
だけど運よく周りの子達はトキヤに夢中で、私の声は聞こえてなかったようだ
しかし握手会、数秒で自分の番が終わってしまう
私の後ろに立っていた警備員さんが背中をポンポンと叩いた
次の人に代われという合図だろう
トキヤさんごめんなさい、並びにファンの皆さんごめんなさい
周りの子達に聞こえてなかったとはいえすぐに噂が広がって、私の未来は閉ざされるだろう
数秒しか無いせいで、弁解する間もなかった。けど
「もしよければこの後お話したいのですが…」
確かに彼は小声だがそう言った
終わった、終わりました
私の人生終わった
多分この後私は関係者によって抹殺コースだ
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「あなたは気付いたんですね」
『え?』
逃げる勇気もなく待っていたらご本人と2人っきりなこの状況
そしてトキヤの第一声がこの言葉
「あなた自身が言ったのではないですか。手を抜いてるんじゃないかと。何故そう思われたのですか?」
『いや、何となく?ですかね』
アイドルに興味が無いとはいえ、人気グループなのだから
TVを点ければ観る気が無くても観る形になる
でも最近歌番組で歌っているトキヤの姿に違和感を感じていた
だけど何なのか分からなかった
だが先日の特番でその違和感に気付いた
歌っている時、彼は手抜きしていると
「もう、必要にされてないかと思いました」
彼はポツリ呟いた
『え?何で今日だってファンの人沢山居たじゃん』
「違います、私の歌です。HAYATOではなくトキヤとして活動させて頂けてるのには感謝しています。」
でもアイドルとして再デビューし、順調に歩んできましたが
歌が評価されていない気がしました
もちろん写真集や、ドラマなどにも出させて頂けて評価されてるのは嬉しいです
ですがその現状に違和感を感じてしまったのです
だからせっかくトキヤとして再デビュー出来ても素直に喜べないのです
なので試しに手を抜いてみようかと思ったのです
単に手を抜いてしまえば上に怒られる
だから、バレないように…
「トキヤの歌声って凄いよね!」「前みたいにソロでもやっていけるレベルだよね」
そのファンの声に嬉しく思い、活動の励みになっていたのに
なのに手を抜いても気付いていない。やはり自分の歌は見られてなかったのだ
気付きたくなかった事実
「自分でそうしたのに後悔してしまったのです。可笑しい話ですよね」
トキヤはそう言った
「私はこの先どうすればいいのですかね」
独り言のように呟いた彼に私は言葉をかけれなかった
そんなの自分で考えなよ。そう言い放つことも出来たはずなのに
何故か私は言葉を失ってしまった
2014/8/31 sun.
鬱気味なトキヤさーん。
アイドルだから必要性が薄くなるのも妥協すべきなのかな、どうなんだろう
という感じです