□第一章□
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時刻は23時前
時間を確認し、スカートにケータイをしまう
今日も学校後の塾が終わりあとは帰るだけ
「ねえキミ...」
あれ、何か聞こえた?
「いやいや無視しないで、お兄さん寂しい」
振り向くと帽子を深く被った男の人
帽子からは茶色の髪の毛がはみ出している
帽子のせいで顔が見えなくて
声的に若い人?
『ていうか不審者!』
「違う違う、僕不審者じゃないよっ」
不審者は慌てて否定した
慌てるところが更に不審なんですが
「今キミのポケットからこれ落としたでしょ」
ほら、と私に渡してくる
『あ、私の学生証』
邪魔だけども失くすと困るもの
ベスト3に入るか入らないかのアイテム
さっきケータイを出した時に落としたんだろう
「わっ、熱ちっ!」
『?』
あ、タバコの火を消しそびれて
指の所までに火の部分がきたのか
指をふーふーしてる
『お兄さんなんでこんな人通りの少ないところで吸ってたの』
「ふふんっ、知りたい?」
『いえ、いいです』
なんだこの人
明日も学校だからさっさと帰ろうと思った
「若いよね」
『?』
「見た目というより見てて若いなと思って」
見た目じゃなくて見てて?
同じじゃないの? と考えてたら
「そんな可愛い顔をされたらお兄さん我慢できないんだけど」
そう言い抱きしめ..られてる?!
『えっ、ちょっとお兄さん?』
私の顔はお兄さんの胸元に
いきなり抱きしめられて驚いたけど、
驚いたのはそれだけじゃなくて
抱きしめられた時に彼の帽子がずれて
顔が見えたのだけどその顔が
『こここ、寿嶺二!!?』
えっ、あのアイドルの寿嶺二だよね
月に照らされた顔に驚きが隠せない
「え?あぁ顔見えちゃった?」
この不審者..じゃないや、学生証を拾ってくれて
そして何故か抱きしめてきたこの人が、
このお兄さんが寿嶺二だったなんて
思考が追いつかない
「今ここで見たの全部キミとの秘密だからね」
そう言って帽子を深く被り直し暗闇に去っていった
―――――――――
「おーい、名前話聞いてるー?」
『あ、ごめん』
翌日の昼休み
友達とお昼ご飯を食べていた
「てか見てよー。昨日買った雑誌なんだけどさぁ」
嬉しそうな顔をしながら
私に見せてきた
「この蘭丸の表情やばくない!?
てか胸元凄いセクシーだよね」
友達は黒崎蘭丸が好きみたいで
こうして時折私に見せてくる
ワイシャツを着てるのだけど、
ボタンをいくつも外してセクシーなカット
いつも通り横目で流しジュースを飲む
友達はパラりとページをめくる
「おおー!これも中々セクシーだよ」
『へぇー、ってゴホゴホっ!!』
じゅ、ジュースが、むせる
「これまた胸元がはだけてセクシーだよね」
めくったページには黒崎蘭丸ではなく、
「いやー、寿嶺二もいいねー」
昨夜私を抱きしめてきたあの人
彼女の言葉通り、先ほどと同じく
ワイシャツの胸元がセクシーな写真
そこに昨夜目の前にあった顔が、胸元が
雑誌を見て今更昨夜の凄さを実感した
有名アイドルがあんな所にいて
おまけに私を抱きしめるなんて異常事態だよ
でも本人はただ私を抱きしめただけ
ただそれだけ