06


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要領のいい子ね、すごいわ涼太
いつからだろうか。そんな声に応えるように心を潰したのは。小さい頃から他の同年代の子供よりも何か優れていた俺は母親や近所の人に、良い子だね、聡い子ねと褒められていた。そんな声が単純に嬉しい感じていた俺は、母や大人の望む良い子になろうとしていた。泣かない、喚かない、怒らない、笑う。例え辛くても顔に出さない。そうやって生きていた
いつだっただろうか、不意に周りの子供と遊んでみたくなって、通っていた幼稚園で初めて友達を作った。初めて土を弄って遊んだり、泥団子を作ってみたり。そんな子供ならば当たり前にする遊びすら俺はしたことがなかったのだ。そしてそれがどんなに楽しいことかも知らなかった
でも、そんな俺を母はよく思っていなかったらしい。最初は気づかなかったけど、母は俺が服を泥だらけにする度に一杯遊んだのね、と微笑んでくれたから

「はぁ、毎日、毎日。こんなに汚して、めんどくさい子になったわ」

そんな声が聞こえてしまって、でもその時は聞き違いだと思って気にしてはいなかった。でも、父と母が仲が悪くなってきて、それのせいなのか母は俺がいるときでも愚痴を零すようになった

「涼太、こんなに服を汚さないで。貴方はいい子なんだから出来るでしょう?」

「あんな子達と遊んでいないで勉強しなさい」

幼い俺は母の言うことが絶対で、母に嫌われるのが怖くて、母の言う通りにした
そんな俺と仲良くしてくれていた友達の母親と俺の母親がたまたま公園で話している時。俺は久しぶりに合った友達にすごく嬉しくなった。でも母親の言葉を思い出して身を震わせた

「涼太。向こうで良い子に、待っててね?」

良い子に、をすごく強調したその言い方に寒気を感じた。すごく嬉しい、上がっていた気分が一気に暗くなった。その友達は遊ぼう、とまた以前のように土遊びに誘ってきた。けど俺はいい子にしていろと言われたからその誘いをやんわりと笑って断ったのだ
そんな俺に何かを感じとったのか友達は少しだけしゅん、とうなだれて一人で土遊びをしていた。俺は公園のベンチに座って大人しく親同士の話しが終わるまで待っていた。そんな時、だった

「なぁりょーた!!いいもんやるよ!」

友達が満面の笑みで走ってきて、その土臭い笑顔がすごく好きだった俺はなんの警戒もなく、手を出してと言われるままに手を出したのだ。ぽん、と手の上に置かれたその、いきものに、俺は数秒おいて絶叫した
その時の友達の顔を俺は忘れないだろう。俺の生理的に受け付けないその生き物、つまりミミズだ。気持ち悪いそのフォルムを見た瞬間、元々緩い涙腺が崩壊して泣きながら母親の足に引っ付いたのを覚えている
友達は良かれと思ってやってくれたのだが、俺はそれを拒絶して泣きわめく。それを見た、友達は、すごく傷ついた顔をして、俺を睨みつけた

「ミミズくらいで泣くなよ!!よわむし!!」

何を言われたのかわからなくて、友達の顔を見る。いつも浮かべていた笑顔は消えて、すごく恐い顔をしていたのを覚えている。時間が止まったような気がした。母親達も、友達からも、汚いものを見るような目を向けられてる気がして

「っ!は、はぁ」

嫌な汗をじっとりとかく身体に荒い息。夢かと汗ばんだ髪をくしゃりと握って隣の体温に意識が向いた
それは、俺が大好きな榎本先輩で。それから俺小さくなったんだっけと呑気に考える。身体の大きさは元に戻っていて榎本先輩は窮屈そうに眉をひそめている
小さくなっていた時の記憶がある俺は、昨日泣き疲れて寝ちゃったのかと考えを巡らせて恥ずかしくなる。まさか大好きな人の前でそんな醜態を晒すとは
でも、直前に聞こえた優しい声を思い出して俺より小さなその身体をぎゅっと抱きしめた。昨日までは俺の方が小さかったのに、今はちゃんと榎本先輩を抱きしめられる。その事実が嬉しくなった

「……斎先輩」

優しく俺を撫でてくれた、優しい人。男なのに俺が好きになってしまった人。絶対に叶わないとしても

「…振り向かせるから、」

絶対に

その身体を抱きしめながらもう一度、俺は眠りについた
叶わなくても

(大好きで)
(愛したい人だから)


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