05


「38度3分」

家につくとベッドに黄瀬を寝かせて体温計を脇に挟む。寝たまんまだから正確には計れてないんだろうが指し示す数値に溜め息をつく
目を閉じたままの黄瀬は公園にいる時よりは大分落ち着いたがまだ熱は高い。明日、病院に連れていくかと考えてからはっとする。三日しか一緒に過ごしていないのに、もう昔から過ごしているような気がしていた。思った以上にこの数日間で黄瀬に愛着が湧いていたらしい。小さい身体はいつものような逞しさは微塵もなく、すぐにでも折れてしまいそうだ。女々しいと言ってしまえばそれまでだが、よくもまぁあんな風に大型犬に育つものだと感心する
ベッドに腰を下ろしながら黄瀬の頭を撫でると長い睫毛がふるりと震えてゆっくりとまぶたが上がる。蜂蜜色の瞳がふらふらとさまよって俺を見た

「おはよう、気分はどうだ?頭痛いか?」

「んぅ…?おかぁさん?」

誰が母親か。青筋が立ちそうな額を揉みほぐすように摩りながら黄瀬の頭を撫でる。途端、その両目がうるうると潤みだした。え、と息を飲むと黄瀬と目が合った
それからその唇が震えてごめんなさい、と確かに紡いだ。目尻からぽろぽろと涙が零れていきしゃくり上げながら必死に言葉を紡ぐ

「おかあさん、ごめ、なさっ…めんどくさいこでごめんなさい、きらわないで…っ」

ミミズくらいで泣く子でごめんなさい、よわむしでごめんなさい。ひくひくとぐずりながら何度も何度もごめんなさい、きらわないでと紡ぐその口を手で塞ぐ
黄瀬は、嫌悪感を向けられることや拒絶されることを極端に嫌う。そういった感情を向けられると一瞬、傷ついた顔をしてから眉を下げて笑うのだ。小さい頃からそうだったのかと思うとなんとなく哀しくなってその身体を抱きしめる
おかあさん?と不安そうな、驚きに満ちたようなその声を聞いて俺も泣きそうになる。でも泣いたら格好つかないからぎゅっと唇を噛んだ

「嫌わねぇよ」

お前は強いな、と背中を撫でればその肩が段々震えていきわんわんと泣き出した。堰を切って溢れる涙を止めることも出来ずに泣く黄瀬の背中をぽんぽんと撫でながらあやす

初めて黄瀬を見た時。その嘘くさい笑顔が苦手で、眉をひそめたのを覚えてる。一年のくせに生意気だし、練習も真面目にしないから嫌いまでは行かずともとりあえず好きではなかった。そのくせバスケはすげぇ上手くて、純粋に尊敬もした
誠凛高校との練習試合に負けてから黄瀬はいままでとは打って変わって練習に打ち込んだ。それと比例して、嘘くさい笑顔を見ることが減っていった。でも、ファンの子や仲の良いとは言えない人には相変わらずの張り付いた笑顔で

今なら分かる気がする。泣き疲れたのか眠ってしまった黄瀬の頭を撫でながらそう心の中で思った。小さくなったのにも関わらず変わらないその笑顔。多分、幼い黄瀬が嫌われないように作った手段なんだろう。そう思ってしまえば訳のわからない感情が溢れてきた。もやもやと渦巻くそれはけして嫌なものじゃなくて首を傾げる。黄瀬の穏やかな寝顔を見て気がついた。その感情は恋慕ににた何かだ
気づいてしまえばそれは胸にストンと落ちてきて、同時に酷く愛おしくなった。すやすやと寝息を立てる黄瀬の額に冷えピタを貼ると、俺も眠くなってきて同じベッドにもぐった

おやすみなさい

(隣にある暖かい体温が)
(こんなにも愛しい)


(6/8)
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