01
「榎本センパーイ!!」
「ちょ、いきなりくっつくなよっ、はーなーせー!」
べったりとくっつく大型犬、もとい黄瀬凉太。バスケの大舞台、I.Hが終わったあたりからこいつはずっとこんな感じだ。それ以前も懐かれていたが夏、桐皇に負けた後からは更にすごくなった。体格差が歴然としているから抱き着かれると逃げるのは厳しい
とか思ってるといつも救世主が現れる
「いつまでも抱き着いてんじゃねぇ!!シバくぞ!!」
「いってっ!!もうシバいてるっス、笠松センパイっ!」
救世主は幼なじみの笠松幸男。男に抱き着いて何が楽しいのか知らないけど黄瀬はいつも俺に抱き着いて幸男にシバかれる。そんな毎日も悪くないと思ってしまう
そんなある日、事件は起きた
―――
ヴー、という携帯のバイブ音に目が覚めた。時間は昼の1時を指していて、携帯には笠松幸男と表示が出ていた
どこの高校も春休みに突入している今日、海常メンバーは東京のストバスに行ってるらしい。俺は明け方にバイトが入ってたからパスしてバイトが終わってからぐっすり寝ていた。それは幸男も知っていて、俺が寝起きが悪いことも知っている筈だ。それでも連絡してくるってことはよっぽどのことがあったってことだ
一瞬、逡巡してから通話ボタンを押した
「………あ゛い?」
「あ、斎か?!悪い、いまからちょっと東京来てくれないか!!」
「……はぁ?…ちょっとなんで森山がゆきの携帯から?」
携帯から聞こえるのは幸男の声じゃなくて森山の声。切羽詰まったように言われたって俺は意味がわからない。理由はあとで説明するっ!早く来てくれ!!そんな風に一方的に喋って切られた携帯を見つめて疑問が出た。携帯の奥から聞こえたあの焦った声は、多分誠凛の透明少年と赤髪の奴。首を傾げながらも俺は愛用のつなぎに足を通して、東京のいつものストバスに急いだ
そこは、予想以上にカオスだった。大きい高校生が小さな子供を囲ってぎゃあぎゃあ騒いでいる。思わず知らんぷりしたくなった俺は悪くないと思う。キセキの世代三人と海常メンバー、誠凛メンバーが金髪の少年を泣かせている図にしか見えない。その中に一人足りないなと辺りを見渡す。黄瀬がいないのだ。突っ立っていても仕方ないのでその集団に向かって歩き出す
「なにコレ?」
「あ、斎!」
「黄瀬どこいんの?あと森山てめぇ一発殴らせろ」
俺の後ろからどす黒いオーラでも出てたのか、びくうっと身体を震わす森山とその他。幸男だけはやっぱりという顔をしてた。うっせぇな寝起きは機嫌わりいんだよ
がつんと頭を殴ってやると涙目で理不尽だと騒ぐ森山。はっ、知るかそんなもん。鼻で笑って一蹴して幸男に状況説明を求めた
説明会終了。意味わからん
どうやらあの泣きわめいてる少年が黄瀬凉太らしい。いきさつはこうだ
ここでバスケをしていたが昼飯の時に桐皇のマネージャー、桃井さつきの飯を食べた黄瀬がいきなり小さくなり泣き出したと
そんな非現実的なことがあるかと周りを見渡すも目を反らされた。しょうがないとちっこい黄瀬と目線を合わせた
「お前、名前は?」
「っく…ひっく、オレは…」
きせりょうたです
(告げられた現実に)
(頭を抱えたくなった俺は悪くないと思う)
(2/8)
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