07


これは一体どういうことなのだろうか。窮屈さと息苦しさに身をよじり、目を開ければ、端正な顔が広がって。反射的に後ろに下がろうとしても出来なくて。少しして抱きしめられていると気づいた
元に戻ったのかと思うのと同時に、何故、抱きしめられているのかと頭をぐるぐる考えがループする

「…ん、ぅ、斎、せんぱい?」

「っ、」

耳元で聞こえる低い声にまた逃げようと身体をよじらせると更にぎゅっと抱きしめられる。流石にきつい、苦しい
けほ、と咳をすると黄瀬はすんませんっス、と謝ってきたが離す気はないらしい。諦めてその睫毛の長い目を見つめる

「元に、戻ったんだな」

「はいっス、おかげさまで」

にこにこといつも以上の笑顔で言い放つ黄瀬に昨日の面影は無いに等しい。まぁ、涙の跡らしいものは残っているが目も腫れていないし、いつも通りのようだ
ほ、と息を吐くと黄瀬の腕を外そうと掴む。何でだろうか、昨日のことがあって黄瀬を直視出来ない。くるりと腕の中で身体の向きを変える
恋慕に似た、というよりは恋慕の情で間違いないだろう。黄瀬の弱い姿を見てから、こんなにも心臓が五月蝿いのだから
どくんどくんと五月蝿い胸を抑えながら落ち着け、と自己暗示する。すると首筋にぬるりとした、何かが這った

「ひぇっ!!」

「ぷっ、可愛いっスね斎先輩」

さっきはスルーしたが、どうして名前呼びになってるのだ。首筋に残る舌の感触にばっと振り向いた
端正な顔が目の前に広がって、目を見開く。黄瀬も目を開けたままで、何の色気もムードもないキス。なんで、どうして、と意味もない言葉が頭の中をぐるぐると回っていく。唇が離れていくと止まっていた時間が動き出したように口をぱくぱくさせる

「おま、なんで…」

「…斎が、好きだから」

そういう意味でと真面目な声。呼び捨てにされた名前に身体の中で何かが渦巻く。歓喜に似たそれ。でも勘違いするなと頭の中で警鐘が鳴り響く
相手は今をときめくモデルだ。そんな男が俺を好きだなんて有り得ない
でも黄瀬の表情を見て息が詰まった。いままでとは違う、穏やかで愛しいものを見るような優しい瞳。蜂蜜色の瞳がとろけるような甘さをもって俺を見ていた。嘘を言うような顔ではない

「斎先輩が気持ち悪いって、思っても仕方ないっス。でも、俺は諦めないから」

気持ちだけ知ってて欲しかった、と笑う黄瀬に顔が熱くなる気がする。でも黄瀬はそれだけ言うとじゃあ、と腕を解いて出て行こうとする
慌てて、その背中に抱き着くとそこで、初めて黄瀬が驚いたように声を震わせた

「俺の気持ちは無視かよ」

「せんぱ、」

何か言おうとしたその口にキスをする。さっきとは立場が逆転して黄瀬が真っ赤な顔になる。まあ、俺も真っ赤なんだろうが

「言っただろ、嫌わねぇって」

耳元で囁いてやれば、黄瀬は顔を歪ませて俺をきつく掻き抱いた


―――

「お騒がせしましたっス!!」

「ほんとだよ馬鹿黄瀬ェ」

「ちょ、青峰っちヒドイっス!!」

あの後、この前のストバスの面子に連絡すれば、集まろうとのことでまたあのストバスに集合していた
元に戻った黄瀬を見て安心したように息をつく面々。桃井に至ってはさっきからずっと謝っている。それを気づかうように青峰が桃井を弄って、それを黒子が庇って、桃井が黒子に抱き着いてと。まぁカオスな空間の出来上がりな訳だが
俺と黄瀬のことなど幸男にはお見通しなのか、ちょっとだけ俺達を見る目が優しい

「斎先輩!!」

眩しいくらいの笑顔で俺の名前を呼ぶ黄瀬がこっちに来いと手を振っている。近寄れば腕を広げてくれることが、堪らなく嬉しくなってそのしっかりした腕に飛び込んだ
ハグの魔法

(慌ただしい数日間は)
(大切なものをくれた魔法の日々)


END


(8/8)
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