あわよくばハッピーエンド


「ナランチャ。レーダーの動きはどう?」

「10m先、3時から9時の方向に歩いてるな」

「私が回り込むから挟み撃ちにしましょう」

「解った!」

ナマエはナランチャが頷いたのを見ると壁の影に姿を消した。
ナマエのシャドウ・デイジーとナランチャのエアロ・スミスは組み合わせることでターゲットの居場所を把握する精度が増す。影の中に潜めばナマエの呼吸はナランチャのエアロ・スミスでさえも探知出来ない。確実にターゲットだけを射程距離内に絞り込める為、ナマエとナランチャのスタンドは相性がいい。
作戦通りターゲットを挟み撃ちにし、とどめはナランチャがエアロ・スミスで撃ち殺せば今日の任務はあっさりと終わった。

「呆気なかったわね。これならナランチャひとりでも十分だったんじゃあないの?」

「俺はナマエと一緒に仕事出来て嬉しいけどなー」

ターゲットの呼吸から死亡を確認したナランチャがレーダーを解除する。任務内容に含まれる公には出来ない手紙の回収をする為にナマエはターゲットのスーツの内ポケットに手を伸ばした。
その瞬間、バチリと小さな火花が爆ぜる。

「ナマエッ!」

「っ!」

慌てて駆け寄るナランチャの左手と、咄嗟に離したナマエの右手がぶつかった。

「大丈夫!?怪我は!?」

「ないわ、ナランチャ。平気よ……静電気かしら?」

「……な、なぁ、ナマエ……」

「なぁに?……mio dio(なんてこと)……」

ナランチャの視線の先を辿ったナマエはあっと溜め息をつき天を仰ぐ。
先程ぶつかったナランチャの左の手のひらとナマエの右の手の甲がぴったり重なり接着剤でくっつけたかのように離れない。

「何だこれー!?離れないぞーッ!?」

「痛いわ、ナランチャ。引っ張らないでちょうだい」

「あっ!あーッ!ごめんよ、ナマエ!」

「これ、スタンド攻撃よね。この男のスタンドかしら?資料にあった?」

「なかったと思うけど……。でもさー、こいつ死んでんのにスタンドだけ攻撃してくるのおかしくない?」

「……そういうスタンドなのかもしれない。死んでから初めて発動する能力。それにしてはちょっとお粗末だけど、どうしてもこの手紙を取られたくなかったってことかしら」

「うーん……よく解んないけど取り敢えずさ、アジトに帰ろうぜ。また攻撃してこないとも限らないし」

「そうね。死体はデイジーに飲み込んでもらいましょう」

ナマエがそう言うとシャドウ・デイジーはあっという間に死体を影の中に引きずり込んだ。
それぞれ手がくっついている状態で並んで歩けば、傍目からは手を繋いで歩いているように見える。
ナランチャの運転で乗ってきた車も今の状態では帰りの運転はナマエがするしかなく、運転席に座ったナマエとシフトレバーの上で繋がる手を見てナランチャの頬が思わず緩んだ。

「……恋人みたいじゃん」

「ナランチャ……楽しんでるわね?」

「えっ!?やだなーそんなことないってばー」

「しょうがない子ねぇ」

苦笑いを浮かべてナマエはシフトレバーを操作する。ナランチャは指を動かしてシフトレバーを握るナマエの手を上から包み込むように握った。それに気付いてちらりと横目でナランチャを見るナマエにぐっと顔を寄せる。

「ガキ扱いしないで」

「……運転中よ。子供じゃないなら大人しく座ってなさい」

ナマエが空いている左手でナランチャの口唇を止める。
ちぇっと舌打ちをしたナランチャはそのままナマエの左手に軽くキスをした。


アジトに戻ると、繋がれたナマエとナランチャの手に気付いたミスタたちにナランチャが問い詰められる。
説明が上手くないナランチャに代わってナマエが説明した。

「スタンド攻撃っつーのが気にかかるが……正直ナランチャ!羨ましいぜ……俺もナマエとくっつきてぇ!!」

「ナマエ、ナランチャに何もされていませんか?煩いド低脳がずっと近くにいるなんてさぞ不愉快でしょう」

「ド低脳って言うな!!」

「ナランチャ、煩いわ」

「あっごめん」

ミスタとフーゴにいつもの調子で食ってかかるナランチャに引っ張られてナマエは顔をしかめる。
ソファに座っていたジョルノが二人分の紅茶を注ぎながら、まぁでもと声をかけた。

「取り敢えず二人とも怪我がなくて良かったです」

ナマエに引っ張られるようにナランチャも並んでソファに座る。利き手が使えないナマエの為にジョルノはカップに砂糖をひとつ入れスプーンで混ぜた。

「濃いめに砂糖はひとつ、ですよね」

「Grazie,ジョルノ」

ジョルノがソーサーごと差し出すとナマエは微笑んでカップを空いている左手で受け取る。それを見ていたナランチャが俺も!と言い出した。

「ジョルノー!俺にもくれよーッ!」

「ナランチャは利き手が使えるでしょう」

「ケチッ!!」

「ナランチャ、煩いわ」

「あっ……」

「この状況もすぐに解消されますよ。ブチャラティが帰ってきたらジッパーで切開してもらいましょう」

「そうね」

利き手の不自由なナマエを全員で甲斐甲斐しく世話していると、ブチャラティとアバッキオが帰ってくる。
ナマエはぱっと立ち上がってブチャラティに駆け寄った。ブチャラティも頬を緩ませて腕を広げる。

「ブチャラティ!待ってたわ」

「ナマエ……俺のことをそんなに恋しく思ってくれていたなんて……ってオイ、なんでナランチャもついてくるんだ?」

「ブチャラティ〜冷たくしないでおくれよ〜」

「早速で悪いけれど、これ外してくれないかしら?」

ナマエがナランチャと繋がった手を掲げて言った。
ブチャラティとアバッキオに事のあらましを説明すると、ふむ、と考えるようにブチャラティは顎に手を当てる。

「接着している部分が部分だからな、上手く出来るか解らんが」

「上手くやってちょうだい。ブチャラティ、あなたなら出来るわ」

「解った。ナマエの頼みなら善処しよう」

ブチャラティがスティッキィ・フィンガーズを出し、ナマエとナランチャの手の間を狙うようにポスンと叩いた。
取り付けられたジッパーによってナマエとナランチャの手は離れる。

「Grazie,ブチャラティ」

「お安いご用だ」

「あ〜あ、あとちょっとだけくっついていたかったなぁ」

「スタンド攻撃されてて何言ってやがる」

お礼を言うナマエはブチャラティの頬にちゅっとキスをし、離れた手を見ながら残念がるナランチャをアバッキオがつついた。

「それじゃあ、私はシャワー浴びてくるわ。仕事終わってそのままだもの」

ナマエがバスルームに行くと、ナランチャもトイレへ入っていく。やれやれと一息つくと、バスルームからナマエとナランチャの悲鳴が聞こえてきた。トイレへ行ったはずのナランチャの声まで何故ナマエのいるバスルームから聞こえるのかと一同がバスルームのドアを開ける。

「ナマエッ!ナランチャ!」

「何があっ……たん、」

先頭にいたブチャラティに次いでジョルノが目の前に広がる光景に言葉を失う。
ナランチャが下着姿のナマエを押し倒していた。
後ろにいたミスタがブチャラティとジョルノの間からそれを見て大声で叫び、前にいる二人を押し退けてナランチャを引っ張り上げる。

「テメェ!何してやがる!!便所に居たんじゃあねぇのか!?」

「キャッ!!」

ナマエの短い悲鳴にミスタがはっと目線をずらすと、豊満な胸に目が釘付けになってしまう。

「赤いレース……」

「そこじゃあないわ、ミスタ」

ナマエの下着を指摘したミスタはナマエに鼻を摘ままれる。後ろからアバッキオが腕を伸ばしてミスタの頭をガツンと拳で叩いてからナマエにナイトガウンを投げた。フーゴは真っ赤な顔で下を向いている。
ナマエは受け取ったバスローブに袖を通す。但し片腕だけ。それもナマエの手とナランチャの手は再び繋がっていたからだ。

「どうやらまたくっついちゃうみたい。ブチャラティ、ガウンを切開してくれるかしら」

ブチャラティがスタンドでガウンにジッパーを付けて、ナマエの袖を通してやる。腰ひもを結ぶナマエの手にはナランチャの手が重なっている為、横からナランチャがナマエの腹を撫でているように見える。それをメンバーからジトリと睨まれてナランチャは慌てた。

「しょ、しょうがないだろ〜!?」

「しょうがねぇって顔じゃあねぇぞ」

「お前、それナマエの胸に手ェ当たってんじゃあねぇの?クソッ!羨ましいッ!」

「おい、ミスタ!」

「ねぇ、あなたたち。いつまでここにいるの。そろそろ退いてくれないかしら。私、疲れているのだけれど」

ナマエの不機嫌な声にサッと顔を青ざめてメンバーがバスルームを出ていく。はぁ、と溜め息をついてナマエはナランチャと共にバスルームを出ると、仮眠室としている寝室のドアを開けた。

「疲れたからもう寝るわ。Buona notte.」

「えっ!?」

ナマエに文字通り手を引かれたナランチャが慌てる。再三注意しているにも関わらず近くで大声を出されたナマエはきゅっと眉をひそめると、ナランチャがしゅんと悄気ながらでもよぉ、と言った。

「寝るってこの状態で?その、お、同じベッドで寝るってこと?」

「そうね。ナランチャが床で寝るなら別だけれど。床がいいの?」

「ヤダ!ナマエと一緒に寝たイテェ!!!!」

ゴチンと殴られた後頭部を押さえながらナランチャが振り向けば、拳を作ったメンバーが立っている。

「オイ!今殴ったやつ誰だよ!?」

「誰でもいいだろ」

「どうせこれから俺らに一発ずつ殴られるんだからよ」

「悪く思うなよ、ナランチャ」

「気絶するまで殴るだけだ、安心しろ」

「明日の朝になったら傷はゴールド・エクスペリエンスで治してあげますからね」

「……や、やだな〜……フーゴ、ミスタ冗談キツいぜ……アバッキオもブチャラティも顔怖いよ……?……ジョルノ、マジで洒落になってないんだけど……」

「洒落じゃあないですからね」

ナマエは咄嗟に両耳を塞いだ。
じりじりと追い詰められるナランチャの絶叫がネアポリスにこだましたことは言うまでもない。


翌朝。
仮眠室の様子が気になってアジトに泊まったメンバーはそっと仮眠室を覗いてみた。

「……おいおいおい」

「どういうことだぁこりぁあ」

「はぁぁぁぁぁ……」

「……手が離れて良かった、と言うべきだろうが……」

「取り敢えず二人が起きたら、ナランチャには暫くナマエと離れてもらいましょうか」

ナランチャに非があるわけではないが、正直この状況は羨ましいので。ジョルノがそう付け加えなくとも頭では理解しているメンバーは頷いた。
懸念していたスタンド能力は効果が切れたようで二人の手は離れていて一安心する。
だがベッドの中で互いに寄り添うように寝ているナランチャとナマエを見て、もう一度深く溜め息をつくのだった。




モドル


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