甘くとろける
ソルベとジェラートが住んでいる自宅の鍵を住人である二人以外持つ者が実は一人だけいる。
「ソルベ〜ジェラート〜……」
項垂れながらリビングにやって来たナマエである。
ソファに重なりあうように寝そべっていたソルベとジェラートが顔を上げてナマエを見た。
いつも天真爛漫な彼女がしゅんとしていることに気付いて、二人は(また、いつものか)と悟る。
普段から誰に対しても何に対しても物怖じせず、良くも悪くも真っ直ぐなナマエだが、周期的にブルーになる時期があるのだ。
傍目からは解らないその時期のナマエに気付くのもソルベとジェラートだけで、他のメンバーはそんなナマエの事情などお構い無しに普段通りに接するので、ナマエはぷつんと心の糸が切れてしまうのだった。
「おいで、ナマエ」
ソルベの上に乗っかっていたジェラートが上半身を起こして、腕を広げる。ナマエはぱっと躊躇いなくその腕に飛び込んだので、二人の下敷きになったソルベが「ぐッ……!」と潰れた蛙のような声を出した。(因みにそう例えたのはジェラートが始まりだ)
ソルベも身体を起こしてナマエの背後から腰に手を回し、ジェラートとは反対側のナマエの肩に顎を載せる。
ナマエはサンドイッチ状態で抱き締められるこの瞬間が堪らなく幸せで、漠然とした不安や焦りから赦される気がしていた。
イカれた犯罪者二人に抱き締められて安息を感じるナマエもやはり同じ穴の狢なのだろう。
「ナマエ、」
抱き締めた状態でソルベがナマエの名前を呼ぶのは何があったか話すきっかけであり、ナマエもそれに従ってぽつりぽつりと話し始めた。
「任務で失敗したの」
「殺し損ねたの?」
「殺した」
「じゃあ失敗とは言わねぇ」
「でもトチったの。ギアッチョが来る前にプロシュートと合流しちゃって、そのせいで見つかってプロシュートはザ・グレイトフル・デッドを使えなかった」
「それはナマエのミスなの?」
「ギアッチョのミスだろう」
「でも。でももし私がもう少し待ってたら?もしギアッチョと先に合流してたら?」
「仮定の話でナマエのミスだとは言えないな」
「もし、は無限にあるんだからな」
「……そうだけど」
「それともプロシュートに何か言われたの?」
「ギアッチョに八つ当たりでもされたか?」
「それなら話は別だな、ソルベ」
「俺たちが話をつけてくるとしようか、ジェラート」
「違う違う!二人とも気にすんなって言ってたよ!私が勝手にメソメソしちゃって」
「いいぜ、どんどんメソメソしなよ。俺たちは泣きそうなナマエの顔を見るの好きなんだ」
「正直ソソられる。3人でヤるか?ヤッたらスッキリするぞ」
「スッキリするのはソルベと俺だけだろ」
「下ネタやめてよー」
際どい会話にもナマエは慣れた様子で答える。
ソルベとジェラートが実際のところ本当に付き合っているのかどうかいまだに不明だが、二人は慰めるついでにナマエをベッドに誘ってくる。
「身体で慰めてあげよっか?って言ってるのに」
「優しいぜ、俺たち二人で組めばな」
「単体はオススメしないよ」
「激しいのが好みなら止めないがな」
「だからシないってば〜!」
もー!と口唇を尖らせるナマエの頬を両側からソルベとジェラートがつついて笑う。
「元気出た?」
「……ん」
「ならご褒美をやらねぇとな」
「ご褒美?」
「なぁ、そうだろ?ジェラート」
「……ああ、ソルベ。そうだな。とびきり甘いやつをやろう」
ニヤニヤと笑う二人にナマエが(怪しい)と思った時には既に両頬にキスをされた後だった。
「zuccherina mia.」
「Dolcezza mia.」
二人の口唇が両頬から離れる瞬間、それぞれが耳元でそう囁く。
砂糖よりもドルチェよりも甘い声はナマエの脳と心を溶かしていく。
「さて、と。ナマエも笑顔になったしコーヒーでも飲もうか」
「そうだな、淹れてこよう」
「Grazie.」
ソルベが器用にナマエとジェラートの下から長い脚を抜いてキッチンへ立つ。
ジェラートとコーヒーを待ちながら、ソルベの淹れてくれるエスプレッソには砂糖はいれないでおこうとナマエは思った。
今の自分自身は十分すぎるほど甘い。多分、きっと。
モドル
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