ナランチャと付き合って解ったことがある。
意外と細やかな気遣いが出来ること。
物凄く心配症なこと。
そしてキス魔だったこと。
この最後の事実は最近ナマエを悩ます種だ。
今日のようにナマエの部屋で二人っきりで過ごしていると、一緒に映画を観ていてもナマエの太股の上にはナランチャの手があって、ナマエがトイレに立つものならば

「ん?どこに行くんだよ?」

と聞いてくる。ナマエがトイレだよ、と答えると

「そっか。いってらっしゃい」

と見送りのキスをされる。戻ってきたときも同様に

「おかえり〜!」

と出迎えのキスをされる。これが毎回である。
ナマエもナランチャのことは好きだしキスだって嬉しいが、限度というものもある。
正直なところキスのし過ぎで口唇が潤う暇がなくかさつくのも辛い。
乾燥予防に高湿潤なバニラオイル配合のリップヴァームを付けていたら「いつもより甘い香りがするなー」とナランチャにべろべろに舐められたのでナマエは早々に使うのを止めた。
二人っきりの時だけならまだしも、人目のある所でもナランチャはこの調子でナマエにキスをしてくるので堪ったものじゃない。
見知らぬ人の前だろうがメンバーの前だろうがナランチャのスキンシップに遠慮はない。
付き合いたての頃はメンバーからそれなりに生温かい目で見られていたが、最近ではナランチャに対してはまたかという諦めとナマエに対しての同情の目が向けられている。
ミスタやフーゴからは「どうにかしろ」と直接言われているが、どうにかしてほしいのはナマエの方である。
先日見兼ねたジョルノが「ここにヒントがあるかも」と渡してきた雑誌の表紙にはキス魔彼氏の本音!とデカデカと書かれていた。
わざわざジョルノがそんな下世話な雑誌を買ってきたのか甚だ疑問だったがそこは敢えて触れずにナマエはお礼を言って受け取った。
そこにはキスが好きな男性の心情として「甘えたい」「満たされたい」「受け入れて欲しい」などがある、と書かれていてナマエはナランチャの過去を思えば無理もないなと半ば諦めるようにぱらぱらと雑誌を読み進めていた。
だがコーナーページの最後に傷つけずにキスを断る方法!という文面にナマエは食いついた。
思わず「これだ!!」と叫んだくらいである。
雑誌の記事を鵜呑みにするのは軽率だとは思うがナマエはそれだけ困っている。
そんなことを考えていると、映画は中盤に差し掛かっていて中弛みしたストーリーにナランチャの集中も切れてきたのかナマエの太股に置いた手がさわさわと動き始める。
これはナランチャがキスをしたい合図だ。

「なぁ〜〜ナマエ〜〜」

「なぁに?」

ナマエがナランチャの方に顔を向けると、既にナランチャが目を瞑って顔を近付けている。
ナマエはぐいっと顔を仰け反らせてナランチャの口唇に指を置いて止めた。

「待って」

「……んだよ……」

いつもなら重なる口唇を止められてナランチャが不服そうに眉をひそめる。

「……ナランチャはどうしてそんなにキスするの?」

ナマエがずっと気になってた疑問だ。
雑誌にも理由がいくつか書いてあり、ナランチャはもしかしてそのいずれかに該当するのではないかと思っていた。
突然聞かれたナランチャは少し離れて腕を組んで首を捻る。

「なんでって恋人だからキスするのは当然だろ?」

純粋な目で答えたナランチャを見て、ナマエは心の中でやっぱりと呟いた。
数ある理由の中でこれが一番ナランチャにしっくりくるなとは思っていたが一番返事に困る理由でもある。

「えっとね、ナランチャ。もっとあなたとのキスを特別にしたい」

ナマエは傷つけないように言葉を選んで言うと、ナランチャの表情がぱぁっと明るくなる。

「可愛いなぁ〜〜ナマエ〜〜!」

「話を聞いて」

「なんだよ〜〜」

再びキスをしようとしてくるナランチャの口唇を今度は手のひらで止める。

「だからね。恋人同士でも人前で簡単に何度もキスされるのは恥ずかしいよ」

「今は二人っきりじゃんかよ」

「そうだね。でも今は映画を観てるから終わったらしようね」

雑誌に載っていたように少し小悪魔感を出して言ってみると、ナランチャの表情が変わった。
きょとんとしてから納得したのかキラキラと目を輝かせるナランチャがナマエの肩を掴む。

「……終わったらしていいんだな?」

「うん。それまではおあずけね」

「分かった!絶対だぞ!」

ナランチャは上機嫌にナマエから離れて映画の続きを観る。
ナマエもほっと安心して、雑誌の効果テキメンだなぁとテレビに目を向けた。
科白が効いたのか、映画が終わるまでナランチャはおとなしく座っていたしナマエがお茶を取りに行ってもキスはおろか見送りの挨拶もない。
やれば出来る子なのだ、ナランチャは。
久々にゆっくりと映画鑑賞が出来てナマエは満足した。
エンドロールが流れる。

「映画面白かったね」

そう言ってナマエが飲み終わったカップを片付けようと腰を浮かすと、ナランチャに腕を掴まれて引っ張られた勢いのままソファに押し倒された。

「ナマエ、どこに行くんだよ?」

「え、カップを洗おうかなって」

ナランチャを見上げると少し不機嫌な表情が浮かんでいる。

「映画終わったらしてもいいって約束しただろ」

「……あ、ごめんね。そうだね。待っててくれてありがとう」

ナランチャの機嫌を更に悪くさせないようにナマエは言葉を選んだ。カップはこのキスが終わってから片付けよう、と諦めて目を閉じる。
ナランチャの顔が近付いてくる気配を感じてそれを待つ。
口唇に柔らかい感触とちゅ、と言うリップ音に、ナマエはうっすらと目を開けて顎を引くと、ナランチャに顎を掴まれて引き戻された。

「……ッん!?」

驚いた拍子に僅かに開いた口唇からナランチャの舌がぬるりと入ってくる。舌先で口蓋をなぞるように舐められて、背筋がぞわっとした。

「ナラ、……ンチャ、なに、待って……!」

シャツの裾から手を入れてくるナランチャに慌ててナマエがナランチャの胸板を押す。

「何って……ナマエがシてもいいって言ったんじゃんかよ」

「はっ?……え、あ、違っ……!」

ナマエの言葉を完全に勘違いしてるナランチャはもうスイッチが入っていて、シャツの中に侵入させた手がナマエの脇腹を撫でた。

「ナマエの言うとおり、暫くキスしないでいると一回が特別な気がするなー」

「ナランチャ、話を聞いて、……あッ!」

「これからちゃんとナマエのこと待つからな!そしたらシてもいいんだもんなー!」

「も、だから、違うんだって、ばぁ……ッ!」

「んー?ここじゃないのかー?」

「ひぇッ!」

ナランチャにまさぐられながら、やっぱり雑誌の記事なんて鵜呑みにするんじゃなかった、とナマエは後悔したのだった。


baciami

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