ノンシュガー症候群




フーゴがブチャラティへ渡す報告書を携えていつものレストランへ行くと、チームが集まるテーブルにはナマエの姿しかなかった。
他のメンバーは見回りなどに出ているのは把握しているがブチャラティはいると思っていたフーゴは、退屈そうにティースプーンを弄んでいるナマエに声を掛けた。

「あれ?ブチャラティは?」

「外」

「ああ、いつものか」

「そ。いつものよ。懲りずにヤってるわけ。お盛んよね」

フーゴの質問にナマエは持っていたティースプーンで窓の外を差す。入ってきた時には姿に気付かなかったから、目立つ場所にはいないのだろう。
彼女の行儀の悪さよりブチャラティの悪癖の方に先に溜め息が出る。
ナマエもまた同じようにやれやれと溜め息をついた。

「それ皮肉か?」

「いや本心よ。別に皮肉るほどブチャラティのプライベートに興味ない」

「ナマエはブチャラティのこと好きなんだと思ってた」

「ないない。私はもっと誠実な人がいいもん」

「ギャングに誠実さを求めるのか?」

「ギャングと付き合うなんて言ってないじゃんよ」

顔の前で手を振るナマエの言葉にフーゴは笑いながら隣の椅子に腰掛ける。
フーゴに笑われて少し拗ねた調子のナマエは口唇を尖らせた。それでも彼のために新しいカップに紅茶を注いでやるとフーゴはGrazie,とそれを受け取った。

「今更一般人と付き合う方が無理だぞ」

「スケコマシやすぐキレる人と付き合う方が無理」

「僕がいつ君と付き合いたいって言ったんだよ」

「冗談だよ」

ナマエと話すとフーゴも意に反して年相応の表情を見せた。ジトリと睨む目がまだあどけなく狂暴さは身を潜めている。ナマエはけらけらと笑い肩を竦めた。
カランとベルの音が響いて、ブチャラティが戻ってくる。
頬にくっきりと手形をくっつけたブチャラティは何事もなかったかのようにフーゴにCiao,と言った。

「報告書はもう出来たのか?」

「Si.……今回の女は特に酷いんじゃあないですか?」

「漫画みたいに手形が残ってるよ。懲りないね〜」

「付き合ってもないのに同じ女と何度も会うからですよ」

フーゴから受け取った報告書をぺらりと捲って内容を確認したブチャラティが空返事で叩かれた頬を擦る。
避けられるのに毎度毎度よく叩かれるものだとナマエは思う。

「ナマエとは付き合ってなくても毎日会うぞ」

「そりゃあブチャラティとは寝てないからね〜」

「アンタからそういう屁理屈聞くとは思わなかったですよ……」

ブチャラティのたちの悪い冗談に怯むことも照れることもなくナマエは即座に答える。フーゴだけが呆れた様子で首を振った。
ブチャラティは気にすることなく、ナマエの方にずいっと身を乗り出す。

「俺とは、ってことはナマエは誰とは寝てるんだ?」

「それ、セクハラね」

「言えないのか?」

「自分が聞かれて嫌なことは他人にも聞かないでほしいな〜!」

「俺は言えるぞ。……アリシア、キアラ、ペトラ、マリアンナ、さっきのがソフィアだ」

「この世で一番必要ない情報だわ」

「ブチャラティは遊びの女の名前なんて覚えないと思ってましたが」

「イタリアの女の名前なんて大体マリアかキアラかソフィアだ」

「めちゃくちゃ失礼なこと言ってるぞ!それが叩かれる理由の正解じゃん!」

「だからボロが出るのか……間違いなく正解ですね」

「全員アモーレ ミオって呼んでるから不正解だ」

「とんでもないクソ野郎だ!ドクズだ!女の敵だ!」

「言い過ぎですよ、ナマエ。気持ちは解りますが」

「良いんだ、フーゴ。これがナマエの愛情表現だからな」

「ちょっと何言ってるか解らない」

「俺のこと好きだろ?」

「何なのその自信は……。どっちかって言ったら男としては嫌いだよ」

「俺は好きだぜ」

「何その顔!ムカつくなあ〜〜〜ッ!」

「照れてんのか?可愛いヤツだな、amore mio.」

「いつ私がアンタのアモーレになったのよ」

「ナマエならいつでも歓迎するぜ。Siと言えば今夜にでも」

「言うか、バーーーーーカ!」







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