ひとりで寝るには広すぎるベッドのシーツはいつもにも増してしわくちゃで、寝起きの私を更に滅入らせる。
いつだって連絡もなしに急に現れてはこのベッドをめちゃくちゃにして朝起きた時にはいなくなっている男の痕跡をまざまざと見せつけられて私はイライラした気持ちでそのシーツを剥ぎ取った。
洗濯機にシーツを突っ込むようにあの男の頭も突っ込んでやりたい。
脱がせる時は荒々しい癖に、女の下着って高いからなぁと丁寧に着けてくれた揃いの下着も脱ぎ捨てて洗濯機へ放り込む。
洗剤と柔軟剤を入れてスイッチを押すとぐるぐると回り出す洗濯機を見つめながら、来るかも解らないのに毎晩ベッドを整えてあの男が好きそうな派手な下着を身に着ける自分の事もいっそ誰かこの洗濯機のような濁流に突っ込んで欲しい。
裸になった身体でそのままシャワーを浴びる。
鏡の前に立つ私の身体に赤いしるしがひとつ、ふたつ、みっつ。そこまで数えて止めた。無駄な数字だ。
それがあの男が私の身体に耽った数だとして、何の生産性も持たない。たった今私の身体の隙間からどろりと出て太ももを汚す白濁がいい証拠だ。

「無駄死にね」

彼の本能的な細胞ですら私の身体を置き去りにして排水溝へ流れていく。馬鹿らしい。
シャワーを済ませてバスタオル一枚巻きつけたまま冷蔵庫からサンペレグリノを出して飲む。微かな炭酸が喉で弾けた。
今日着る服を選んでいると電話が鳴り、コール二回で切れる。
出なくても解る。彼が私を呼び出す時のやり方だ。
今日こそは文句を言ってやらねば気が済まない。
かけ直すのはその為だ。

――Pronto?

「ホルマジオ、あなたね……!」

――お前の怒った声ってセクシーで好きだぜ

「次そんな事言ったら殺してやるわよ」

――次も逢ってくれるんだな

「ムカつく」

電話の向こうでケラケラと楽しそうに笑う男の笑い声に私は舌打ちをしてガチャリと受話器を置いた。
私とホルマジオの間に次はない。
次があるのは恋人同士かきちんと約束した相手とだけだ。
ホルマジオは私にとってそのどちらでもない。ホルマジオにとっても同じ事だ。
外を見れば憎らしいほどの青空である。
シーツを干しても乾くだろう。
今夜、私がベッドを整えるのはただそれだけの理由である。



第三金曜日の朝九時


ワンライ「耽る」






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