10月31日。ここイタリアでもハロウィンにはお決まりの台詞がある。

「Buon halloween!!」

「これは随分と可愛らしい黒猫だな」

ニャー!と両指を爪に見立ててブチャラティに言うと、キョトンとした後にフフフと笑って私の頭についている猫耳を撫でた。

「Dolcetto o scher……ッ!?」

肝心の台詞を盛大に噛む。噛んでしまった舌の痛みに反射的に涙がじわりと目に浮かんだ。
頬を押さえて痛がる私にブチャラティは心配そうに顔を覗きこんでくる。

「大丈夫か?」

「……ん、痛い……」

「どれ、貸してみろ」

え、と思ってる内にブチャラティが私の顎を持って顔を上に上げるとそのまま口唇にチュッ、とキスをした。

「エッ!?え、エッ!?何!?イタズラ!?」

「オレとのキスはドルチェだろ」

慌てる私を他所にブチャラティはたった今重なった口唇をぺろりと舐めてしれっと答える。
ちらりと見えた舌先の赤さに先程の感触が生々しく残る自分の口唇を指で触れた。もう舌を噛んだことの痛みなどどこかへ行ってしまった。

「お前が望む方のキスをしてやるよ。Dolcetto o scherzetto?」

甘いキスかいたずらなキスか、私がキスされるのはもう決定事項のようだ。
そもそもギャング相手に無謀な駆け引きだったと気付くのが遅かった私が悪いのだと諦めて溜息をつく。

「           」

「……いい返事だ。ガッティーナ」

私がどちらを選んだのかはブチャラティと私だけの秘密としておこう。


招かれるまま 胸を弾ませ


ワンライ「装い」
どっちにしたって大差ない







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