太陽が水平線に沈んでいくのを塀の上に座って見ていた。
海風が潮騒と共に私の髪を揺らす。長い髪が目にかかったので払い避けると、隣にアバッキオが腰を下ろしていた。
普段誰とも馴れ合わない一匹狼のような彼が私の姿を見つけては傍に来るようになってから一ヶ月が経とうとしている。
理由ははっきりとは解らなかった。
私も聞かないしアバッキオも何も言わずにじっと私の隣で同じ方向を見ている。
聞くのも野暮のような気がした。特に今日のような美しい日没の前では。
ちらりと隣を見ればアバッキオはいつもの難しそうな顔でじっと景色を眺めている。珍しい彼の二層の瞳に燃えるような太陽の光が映り込んでキラキラと琥珀のように輝いていた。

「……アバッキオの瞳って日没前の空と同じ色をしているのね」

「そんな事言う奴、お前が初めてだ」

宵の空と沈みゆく太陽をひとつにまとめたようだ。
ライラックとサンイエローの二層は見るものの目を奪う。私は未だかつてこれよりも美しい瞳を見たことがない。
その美しさに魅入っていると、太陽が水平線に隠れてしまう丁度その時、アバッキオの口唇が私の口唇に触れた。
時間にして数秒程のキスはやけに長く感じて、離れたアバッキオがくるりと背を向けた頃には太陽の光は残っていなかった。
宵闇の中でアバッキオの銀髪が仄かに光を帯びて浮かんでいる。私はその背に向かって彼の名前を呼ぶ。

「ねぇアバッキオ」

振り向いたアバッキオは眉を寄せて黙っていた。何をどう言おうか迷っているような感じだ。

「……惚れてんだよ。……解ってんだろ、」

「そういうの狡いんじゃあない?明日また此処で、改めて告白聞くから。うっとりするような告白を待ってるわ」

「……どっちが狡いんだよ……」



清かに沈む


ワンライ「没入」






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