村外れにある廃屋に身を隠すように一人の男の人が住んでいる。
その人は右目と両足を失っていて、右目には眼帯、両足には義足を嵌め、車椅子で生活している。
村社会というのはとても閉塞的な文化が根付いていて、余所者を嫌う。その男性について村の大人たちの口から悪い噂が立つのが早かったのは自然の事でもあった。
上辺では何か困ったことがあったら言って欲しいと言った村長がいの一番に彼の過去を村民たちに流言蜚語した。私はそんな悪い人には見えないと友人に話した事が何処からか村長の耳に入り、ならばお前があの男の世話をすれば良かろうと世話係を押し付けられたのだった。
母も噂に惑わされはしないまでも、半身が不自由だとしても三十路を越えた男の家へ娘をひとり行かせるのは不安だと顔を曇らせていたが、その心配は彼の家へ初めて行った時に消えた。

「ボンジュール、ムシュー・ポルナレフ」

「ボンジュール、マドモアゼル」

私の声に車椅子を半回転させてポルナレフさんがにこりと笑う。
いつも寂しそうに笑うこの人はとても紳士的で、彼から村の男たちから受ける視線を感じたことはない。
私がポルナレフさんの所へ通うのは週に一度。さぞ不便であろうと思った車椅子を彼はとても上手く扱う。まるで誰かが傍にいるかのようである。

「先週の洗濯物です。タンスにしまっておきますね」

「ありがとう」

「それとこの間来た時、廊下の電球が切れていたので持ってきました」

「ああ、それじゃあそれは私が」

「いえ。私がやりますから」

「では脚立の場所を」

「物置ですよね、分かってます」

パタパタと家の中を走り回る私にポルナレフさんはいつも私ではない遠くを見つめては微笑む。
その顔が何処か寂しげでいつも理由を聞こうと思うのに、毎回聞けずに終わるのだ。
洗濯物を片付け電球の交換をし終えてリビングへ戻ると、ポルナレフさんが膝の上に銀のトレーを載せている。

「終わったかな?お茶にしよう」

「あっ、私がやります」

「いいから。君は手を洗ってきなさい」

ポルナレフさんにそう言われたので、素直に洗面台で手を洗って戻ると、テーブルにカップとカヌレが置いてあった。
私は一脚しかない椅子に座るとポルナレフさんがカップに紅茶を注いでくれた。

「ありがとうございます」

「これくらい君がしてくれている事に比べたら何でもないさ。君のお陰で私は至れり尽くせりの生活を送っているよ」

「それは……光栄です」

私の科白です、と出そうになった言葉を寸での所で言い直す。
彼の世話をしにやって来てはこうして美味しい紅茶とお菓子を頂き、煩わしい村から離れ心地好い時間が過ごせるのだから。


Tea party
in the sanctuary


ワンライ「至れり尽くせり」






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