「Sono contento.」

「Contenta.」

「あっ女性が使う時はcontentaなのね?」

「Si.」

「前に習ったandataと同じ?」

「“Right”.」

「難しいよ〜……」

「来たばっかりの頃よりは大分マシになったんじゃあねぇか?」

「そうかな?」

「うちのチームに配属されたヤツがまさかジャポネーゼの女で、イタリア語が話せねぇとは驚きだったけどよォ。俺が居なかったら詰んでたな、お前」

「その通りだよ。感謝してるよ〜ホルマジオ〜」

数ヶ月前に新メンバーとして加入した彼女は英語と日本語しか話せず、メンバーとのコミュニケーションが一切取れない状況だった。
何とか互いの名前だけ伝えているところに、長期任務で離れていたホルマジオが帰還して、唯一英語を話せるとあってメンバーも新入りも事なきを得た。
流れるように新入りの教育係はホルマジオと決まり、ギャングや殺しの仕事の他にイタリア語まで教える事となり今に至る。
ホルマジオが新人をちらりと盗み見ると、ベィビィ・フェイス用の絵本を真剣な顔でうんうん唸りながら読んでいる彼女の横顔は東洋らしいエキゾチックさを湛えている。

「……Lavori duro e sei ancora bellissima.」

「?何て言ったの?」

「イタリア語をマスターしたら教えてやるよ」

「えーッ!?」

大袈裟に肩を落とす新人を見て、ホルマジオが楽しげに笑う。
新人がここからイタリア語を話せるようになるまでには時間がかかるだろう。
彼女に向けられる言葉の中には口説き文句も多くある。ホルマジオがそれをわざと通訳せずにいるのはこの東洋人を口説き落とすのは自分だと決めているからであり、彼女の勉強を手伝う振りをしながらもすぐに習得させないよう裏で上手く調節していることを当の本人は何も知らない。
回りくどい事をしていると言われようとも、長期戦が得意なホルマジオならいずれ確実に彼女を落とすだろう。
その時には先程呟いた言葉よりももっと毒々しいまでの甘い愛の言葉を囁いてやろう。
真っ赤な林檎のように熟れる彼女の表情を思い浮かべれば、ホルマジオは思わず舌舐めずりをしてニタリと微笑んだ。


日本式(ジャパニーズ)イリュージョン
のまぜこぜ


ワンライ「長期戦」
"一生懸命働くお前はそれでも美しい"






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -