うとうととしながら意識がゆっくりと覚醒していく。
カーテンを閉めて寝たので何時か解らない。体感的には大分寝た気がするし寝足りない気もする。
玄関からガチャリと音が響いたので、まだ起ききらない身体を起こした。
ムカつく腹部を撫でながら寝室から出たところでブローノと彼の腕に抱かれている娘と目が合った。
「マンマ!ただいま!」
「おかえり、プリンチペッサ」
「ただいま」
「おかえり、ブローノ」
代わる代わるハグとバーチをした後、撫でていた腹をブローノがちらりと見た。
「体調はあまり良くないらしい」
「うん。今起きたの」
「何か食べられそうか?」
「酸っぱいものが食べたい」
「ほらね、パードレ!わたしの言ったとおり!グレープフルーツを買って正解ね!」
娘が大事に胸に抱えていたグレープフルーツを私に差し出しす。その笑顔に自然と私の頬も緩んだ。
「Grazie,tesoro mio.」
一番大きくて太陽みたいなのを選んできたのよ!と話す娘は一日私と離れていたせいもあって今日の出来事をこと細かく話し始める。
妊娠四ヶ月を向かえる私のお腹はまだそこまで大きくはない。娘の時にはなかった悪阻が殊更酷くて食欲はなくなり代わりに睡眠欲が増した。悪阻は何も吐くだけではない。過食も嘔吐も眠たいのも全て悪阻だ。
私の友人も悪阻が酷く、起きては食べてすぐに吐き出しまた寝るといった妊娠生活を送ったと話していた。安定期に入れば悪阻も落ち着くのでそれまでの我慢である。
こんな訳で一日を殆どベッドで過ごすようになった私に代わってブローノが娘の送り迎えをしている。
詳しくはブローノとその仲間たちだ。娘が生まれるとき、ボスのジョルノがパッショーネにも託児所を作ってくれたお陰で娘は一番安全な場所に預けている。
物々しいスーツの男たちが出入りするところではあるが、託児所は一般の所と変わらず子供に親しみやすい施設だ。
娘も赤ん坊の頃から通っているためか眼光鋭い男たちが彷徨いていても物怖じせずに手を振るような子だ。
「今日はね、レオーネおじさんと折り紙したのよ。それからグイードおじさんがサンドイッチとオレンジジュースをくれて、パニーは数字を教えてくれたの」
以前の彼らを知っているからこそ娘の話に登場する彼らはギャップがありすぎて面白い。子供を見ただけで泣かれていたあのアバッキオが娘と折り紙をする日が来ようとは。
娘が鞄から銀色の折り紙で折られた星を取り出して見せる。
「ほら、見て!星よ!レオーネおじさんが手伝ってくれたの。弟が生まれたらあげるんだ」
「弟?妹かもしれないぞ?」
「ううん!パードレ!絶対弟よ!男の子だとつわりがひどいのよ」
「そんなこと誰から聞いたの?」
「ナランチャくん」
「あいつ……」
ブローノが額を押さえて唸る。娘はきょとんとしてから、私の手を引いた。
「マンマ、早くグレープフルーツ食べようよ」
「そうね。みんなで食べましょう」
キッチンでグレープフルーツをきれいに洗ってから包丁を入れる。
まな板にごろんと割れた中身を見て娘があっと声をあげた。
「ルビーだ!」
ルビー色の果肉に喜ぶ娘にブルーノも私もクスリと笑う。
櫛形に切って皿に盛り付ける。
「持ってく!」
「落とさないで」
「だいじょうぶ!もうすぐお姉ちゃんだもん!」
「頼もしいな」
「そうね」
ブルーノが私の肩を抱き空いている方の手でお腹を撫でた。
その手と同じ温かさが私の中にもある。そして目の前の娘にも。
男の子の名前を考えなくっちゃあな、と呟くブルーノに私は笑った。
星と
ルビーグレープフルーツ
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