部屋でテレビを観ているとイルーゾォが画面から目を離さずに、カレー食いたくねぇ?と呟いた。
今テレビには本番のスパイスを使った本格派カレー店が映っている。画面越しに匂いがしてきそうだった。
「お前、誕生日だろ?奢ってやるから食いに行こうぜ」
「うん」
イルーゾォは誕生日を覚えていた訳ではない。テーブルの上に置かれたネイルサロンからのDMに誕生日が書いてある。
してやる、と言う時の彼の顔はとても良い。
運転手が私だとしても、ガラスに映る彼の横顔は美しかった。
「本格的なカレー屋さん、近くにあったかな」
「駅前にココイチがあるだろ。今なら季節限定でスパイスカレーがあるはずだ」
「そうなんだ」
こうした行動力だけはある。今もドアに肘をつきながらスマホを操作している。
「たまに食いたくなるよな、ココイチのカレー」
「そうだね」
薄っぺらい会話を何回か繰り返した後、ココイチへ到着した。
イルーゾォは店内に入るなりテーブルにつくよりも先に漫画のある本棚へ行き、ONE PIECEの最新刊を取る。
私は先にテーブルについて季節限定のメニューを見ていた。
スパイスカレーTHEローストチキンスパイシーマサラカレー。
彼が言っていたのはこれだろう。
「決まったか?」
「うん」
私が食べるものは決まっているのでメニューを見ずとも良い。具なしのポークカレーだ。
ONE PIECEに夢中なイルーゾォの顔を眺めながら、オーダーしたカレーを待つ。
私はONE PIECEを空島編で離脱したのでストーリーが分からない。ルフィが海賊王になったと聞かないからまだなのだろう。コナンもまだ子供のままだし。恐らく漫画とはそういうものだ。
なのにどうして私の頼んだカレーを先に持ってくるんだろう。
二人で来ているんだから、同時に持ってきてくれないと困る。
「食わねぇの?」
「熱そうだから」
「猫舌治らねぇのな」
「治らないよ」
やっと彼の頼んだカレーが来た。既に私のカレーは温くなっている。スプーンを動かすイルーゾォに聞いてみた。
「……美味しい?」
「まぁまぁだな。チキンは美味い」
「良かった」
食べ終わり伝票をホルダーから抜こうとすると、イルーゾォが先に伝票を取った。
「このイルーゾォが奢ってやるって言っただろう」
「ありがとう」
「ん」
代わりに読み終わったONE PIECEを渡してくる。私が本棚に返している間に会計は済んだ。
「ご馳走さま。イルーゾォ、ありがとう」
「どうってことない。あ、ケーキ食うか。帰りにシャトレーゼ寄れ」
「うん。カレー奢ってもらったから今度は私が買うね」
「二個買って家で食おうぜ」
「うん」
その二個もきっと選びきれないイルーゾォのケーキになるだろうと思うと幸せで頬が緩むのが抑えられなかった。
スパイスカレー
THEローストチキン
スパイシーマサラカレー
お誕生日のフォロワー様へ