※学パロ

アデレードがこの初音学園へ季節外れの転校をしてきて一ヶ月。
自分の目立つ外見が他の生徒を遠ざけていたのはアデレードにも自覚はあったが、自分から周囲に溶け込もうとする事もせずに日々を過していたお陰で噂に尾ひれはひれがついて噂だけが独り歩きしている。
従弟は小言混じりに心配してくるが、アデレードが一向に意に介さないのだから、従弟の頭痛の種は消えない。
その日もアデレードはひとりで吹き抜けのホールに設置されている自販機へ向かった。ここの自販機は昼休みになると生徒たちで長蛇の列が出来るが今のような時間帯では誰もいない。だが今日は先客がいた。
キャメル色のカーディガンをオーバーサイズに着た、髪の長い女子生徒だった。
その女子生徒が自販機の前から退いたので、入れ替わるように足を動かした瞬間、彼女の財布から小銭がチャリンと落ちてアデレードの足元に転がった。

「あッ」

女子生徒も落ちた事に気付いて振り返る。長い黒髪が豊かに揺れた。アデレードは上履きに当たった硬貨を拾い上げ、その女子生徒に渡す。

「はい」

「ありがとう。……あ、」

彼女の手のひらに硬貨を置く際に、彼女が何かに気付いたように声を洩らしたのでアデレードも何かと思って首を傾げた。アデレードの仕草を見て、声を出してしまった事にその時初めて気が付いたように女子生徒は口を押さえたがすぐに微笑みを向けた。

「ネイル、綺麗ね」

彼女がふと目線を下げる。その先にはアデレードの手があり、指摘通り爪には薄いピンクが塗られていた。昨夜塗り直したばかりのマニキュアは何処も剥がれることなくツヤめいている。

「ありがとう。あなたはしないの?」

「長く伸ばさないの。拳が握れないから」

おかしな理由だと思った。
手を握った時に爪が食い込むから、という意味だとしても何だかおかしくてアデレードは「ふうん」と聞き流しながらも、女子生徒の素の爪を見ながら何色が似合うだろうかと想像していた。

「ナオ、」

「今行くわ」

不意に彼女を呼びに現れた男子生徒を振り返りながら、ナオと呼ばれた女子生徒はアデレードに「それじゃあ」と別れを告げた。




翌日、ナオはいつものように自分のクラスの自分の席につき、机を挟んでメローネと向き合って話していた。
クラス内がザワッと微かにどよめいたのに気付いてナオとメローネが顔を上げると、他クラスのアデレードが教室に入ってきてこちらに向かってきている。
アデレードはナオとメローネのいる机の前で止まった。

「あら、転校生さん?」

「私の事を知ってるの」

「美人転校生だって有名だもの。あなたこそよく私の学年とクラスが分かったわね」

「上靴の色が同じだったから」

「ああ……」

ナオが納得したように上靴を揺らした。それまで黙ってやり取りを聞いていたメローネがずいっと身を乗り出してくる。

「なぁ、彼女は今オレと喋ってるんだが」

「あなたの恋人?」

「え、……ええ」

「あなたに似合いそうな色を選んできたの。どの色が好き?」
アデレードはメローネの方を見ずに変わらずナオに尋ね、持っていた鞄からマニキュアの小瓶をいくつか机に並べた。
オーキッドにヴァイオレット。ライラックにラベンダー、そしてアメジスト。

「それとも私が好きな色をあなたに塗ってもいいかしら」

空いていた椅子をがたりと寄せてアデレードはナオの隣に座ると、ナオの手を取る。

「少し借りるわね」

並べた小瓶の中からひとつを躊躇いもなく選び、小さな刷毛でナオの切り揃えられた爪を撫でれば、オーキッドが薄く色付いていた。





Phalaenopsis

幸せが飛んできて、爪先にとまった




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