豪華なシャンデリアに美しい夜景、それから冷えたシャンパンと愛する女性。これ以上最高な夜があるだろうか。
プロシュートは久しぶりに会ったアデレードとディナーを楽しんでいた。一度愛し合って別れた女だが、プロシュートは未だにアデレードのことを愛している。
彼にしては珍しく復縁も視野に入れてことあるごとにデートに誘っていたが、今夜は珍しくアデレードが首を縦に振ったのだった。
約束の時間に現れたアデレードは目が眩むほど美しく、思わず見惚れるほどだ。ボーイに代わって椅子を引いてやれば彼女の真っ赤な口紅がキュッと上がる。黒いイブニングドレスは白い背中を露にしていて、そこには天使の羽がついていたのだと言われてもおかしくなかった。

「Sei bellissima.」

「Grazie.」

「そのドレス、似合ってる」

「あなたが好きだと思って」

アデレードの完璧さはプロシュートによるものだ。今の言葉は皮肉と捉えるべきであるが、プロシュートは楽しげに鼻を鳴らす。
グラスにシャンパンを注ぐときめ細やかな泡が列をなして上っていく。良いシャンパンの証だ。

「良いシャンパンね」

「そうだな。最高の女と過ごす夜には誂え向きだ」

二人ともグラスを軽く持ち上げて乾杯とする。
運ばれてくる食事を楽しみながらプロシュートは目の前のアデレードを見つめた。熱っぽい視線も気にせずにアデレードはメインディッシュである仔牛のローストを口へ運んでいる。

「食べ終わったらこの上にあるバーに行かないか?季節限定のカクテルがあるらしい。アデレード、好きだろう?」

「これを食べたら帰るわ」

「……帰る?何かまずかったか?」

「いいえ、プロシュート。あなたは完璧。でも明日から仕事なの。今夜はゆっくり休みたいわ」

アデレードは言外に今夜は泊まらないことをほのめかす。プロシュートもそれを察して眉を寄せた。

「俺が完璧なら付き合えよ」

「バーに?それともベッドに?」

「どっちもだ」

「仕事に支障をきたさないようにするのがプロだって私に教えたのはあなたよ、プロシュート」

「何の仕事だ」

「そんなの言えないわ」

「まさかブチャラティの野郎と一緒だとか言うんじゃあねぇだろうな」

「秘密よ。仕事に関することは何もかもね。知ってるでしょう?」

プロシュートがはぁ、と深く溜め息をつく。どうやら今夜はここまでらしい。これ以上粘るのはプロシュートのプライドが許さなかった。

「最後のドルチェくらい食べていけよ」

「Certo.トルタタルトゥファータを逃す私じゃあないわ」




「Buongiorno,signorina.今日からあなたの護衛につくアデレードよ。よろしくね」

「……アイです、よろしくお願いします」

待ち合わせ場所に指定したリストランテにフーゴとナランチャを連れてやって来た少女にアデレードはにこりと微笑みながら手を差し出した。
アイと名乗る少女は少しだけ照れながらアデレードの手を握り返す。
彼女がアデレードの今回の任務の護衛対象だ。ジョジョ直々の命令もあって失敗は許されない。
まだ少女である。あどけなさの残る輪郭を眺めていると、アイがふるふると震えていた。どうしたのかと思えば、次の瞬間アイは口を開いた。

「美人!良い匂いがします!!綺麗な女の人の匂いがしますッ!」

「落ち着いて、アイ」

「何?もしかして最近のギャングはモデル事務所でもやってるの???フーゴといいナランチャといいプロシュートといい!」

「あら、プロシュートを知ってるの?」

「昨日バーで会ったぞ」

「女にフラれたとか言ってたけど……もしかして……」

「Si.昨日彼とデートだったわ」

「わー……」

「え?アデレードさんとプロシュートって付き合ってるんですか?顔がとても良い男とアデレードさん????その空間だけ絵画じゃないです???」

「面白いことを言うのね」

「アイー、アデレードとプロシュートは元恋人だぞー。モ!ト!」

「えっ?イタリアでは別れた相手ともデートするの?」

「イタリアでもアデレードくらいですよ」

「予定と気分が合えばデートするわ」

「も、もしかしてアデレードさんってとんでもなくイケナイオネエサンなんじゃ……!」

「ブッ!!!!」

「なんだよイケナイオネエサンって。AVのタイトルかよ」

「このド腐れ脳ミソがーーーッ!」

「ギャーーーーーッ!」

アイの爆弾発言にフーゴは飲んでいた紅茶を噴き出す。更にそこへナランチャが追い討ちを掛けたので遂にはフーゴの血管はぶちギレて、ナランチャの頬にフォークを突き立てたのだった。

「あなたを護るのがイケナイオネエサンじゃあ不安かしら?」

フーゴとナランチャの喧嘩に気を取られていたアイのすぐ目の前にアデレードの顔がある。CHANELのアリュールがふわりと香り、アイはアデレードのエナメルのように艶めくフーシャピンクの口紅に目が逸らせないでいると、それはゆっくりと頬へ押し当てられた。

「Sei molto carina.」

「……え、えっ!?」

アデレードから頬にキスされたことに気付くのに一瞬間があり、アイはボッと顔を真っ赤にさせる。

「林檎のような頬ね。肌は雪のように白く髪は黒檀の木のように黒い……白雪姫みたいだわ」

「ひぇ……」

アイはそう短く叫ぶと、テーブルに突っ伏した。フーゴが慌てた様子でナランチャを突き飛ばす。突き飛ばされたナランチャはぐえっと潰れた声を出して引っくり返った。

「アイッ!」

「美ッ!美の暴力ッ!美で殴られたッ!」

「フーゴ、キスしてみたら?白雪姫は王子様からの真実の愛のキスで目が覚めるのよ」

「もう!からかわないでください!」

「悪い魔女に拐われちゃうわよ」

フフフ、と微笑むアデレードをそれまで黙って見ていたアバッキオが痛むこめかみを押さえて深々と溜め息をついた。
最近の彼の頭痛の種は専らこの美しすぎる従姉によるものだが、当の本人であるアデレードは余裕のある笑みをたたえてアイを楽しげに見つめていた。




エンジェルアタック

フラれてやけ酒するために行ったバーにアイちゃんいた




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