遺品。
その言葉がペッシの胃にドシリとのし掛かり、今しがた飲んだミルクが戻りそうだった。
プロシュートの胸元の独特なネックレスがペッシの脳内で揺れる。
スニーカーとブーツの足音がして、ギアッチョとメローネが買い物袋を携えて入ってきた。
今日の買い出し当番は二人のようだ。

「珍しいメンツだなァ」

「何の話だ?」

カウンター奥にある狭いキッチンに入っていったギアッチョとメローネが買ってきたものをしまいながら、話しかけてきた。

「パンチェッタの話だよ」

ジェラートの答えに、冷蔵庫に顔を突っ込んでいたギアッチョががばりと身を起こす。その拍子に後ろにいたメローネにぶつかって酒の瓶がぐらりと傾いた。

「おっと。ギアッチョ、危ないぞ。これ、プロシュートの酒だ」

「悪ィ。……んで?パンチェッタの話ってなんだよ」

「これ。ペッシがプロシュートからくすねた写真だ」

「ジェラート、人聞きの悪い言い方するなよォ」

「本当のことだろ。ペッシがパンチェッタについてひとりひとり聞いて回ってる」

ソルベがキッチンにいる二人に酒の有無を聞けば、二人は買い物袋からそれぞれスミノフとジーマを出した。
ギアッチョはジェラートから写真を受け取ると、横からメローネも一緒になって覗き込む。

「これいつ撮った写真だ?」

「さァな。……3年前だ」

メローネがギアッチョの手から取った写真を裏返して言うと、写真をそのままペッシへと返した。
二人はテーブルの縁を使って器用に瓶のキャップを外す。
テーブルの縁には同じような傷がいくつもついている。

「それで?俺にも話せってワケか」




ギアッチョはかく語りき。
パンチェッタのことって言うが、別に特になにもねぇ。
……んだよ、メローネ。うっせ、黙っとれ。
──あー……いや、そう言われるとよォ……何にもパンチェッタのこと知らなかったんだなと思ってよ。
俺がチームに入った頃、パンチェッタは既に30越えてたしな。
──見えねぇだろ?プロシュートもそうだが、アイツらは化けもんかなにかなんだろうよ。
俺とジェラートが同期っていうのは聞いたか?
──そうか。ジェラートの教育係はソルベで、俺はプロシュートだった。
おい、お前らの馴れ初めの話はどうでもいい。聞きたくねぇ。
……とまぁ、俺とプロシュートはソルベとジェラートみたいには上手くはいかなかった。性格もスタンドも相性が悪いからな。
よく喧嘩もしたし一方的に殴られることもあったが、その度にパンチェッタは仲裁に入ってフォローしてた。
仲裁っつっても生易しいモンじゃあねぇ。互いに一発ずつパンチェッタからもらうんだよ。
女の癖に的確に急所をついてくるし、パンチェッタのビンタは鞭みたいにしなるからまず耳がやられる。
耳は平衡覚を司る器官だからな、互いにぐらぐらして立てなくなる。
それから床に倒れて立てなくなった俺とプロシュートの顔の傍にパンチェッタはしゃがんで煙草を吹かす。もうおしまいだって合図だ。そこで意地でも立ち上がろうとすると、起こした鼻を蹴り上げられる。
──ああ、一度な。言っとくがプロシュートもだぜ。アイツも鼻を折られてるのに、あの鼻だ。ムカつくぜ。
喧嘩の後、ひとりでベランダに出てると必ずパンチェッタがウィスキー持ってやって来てよォ。こっちは殴られて口の中痛ェっつーのに「消毒液代わりだ」ってウィスキーを寄越すんだから呆れるだろう?
夜明けの空に星が残っていて、俺が痛がりながらウィスキーをちびちび飲んでいるのを、パンチェッタは横で黙って空を眺めてた。
……パンチェッタなりの優しさだったんだろうな。俺なんかを気遣うなんてよォ……そういうヤツだった。
最初にも言ったが、詳しいことは知らねぇ。
そんな長い間一緒のチームにいなかったしな。
──何で死んだんだ?って……そればっかりは俺の口からは言えねぇ。


むきだしの残星をからめ



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