リゾットとの話を終えたペッシが彼の部屋を辞して廊下を歩いていると、急に引っ張られて気付けば反転した世界にいた。
音も生き物の気配もない。
イルーゾォのマン・イン・ザ・ミラーの世界だ。

「イルーゾォ?どうしたんだい、急に」

「さっきリーダーに見せていた写真を出せ」

「え、」

「俺にも見せろっつってんだよ」

イルーゾォは少し苛つきながら差し出した手をひらひらとさせて催促してくる。ペッシはポケットから写真を取り出してイルーゾォに渡した。

「イルーゾォもパンチェッタ姉貴のことを知ってるのかい?」

「……ああ。」

イルーゾォの返事はいつも通りにぶっきらぼうだったが、写真を見つめる表情はリゾットと同じく懐かしさが滲んでいた。

「話してやってもいいぞ」




イルーゾォはかく語りき。
俺がこのチームに加入したのはリーダーに誘われたからだ。
当時俺はどこの組織にも属さない個人の殺し屋で、そりゃあ沢山の組織が俺を欲しがってスカウトに来たもんだ。
リーダーもその内のひとりだった。
リーダーと言ってもその頃向こうはまだこのチームに入ったばかりで、俺を誘ってチームに入れろというのが初任務だと言った。
正直、俺は面白くなかった。このイルーゾォを誘うのが新人の初任務とは舐められたモンだとな。
バカ正直に話すリーダーのことも気に入らなかった。
でもリーダーは諦めずに、俺がうんざりするほど誘いに来やがった。俺は初めて自分からどうして俺を誘うのか理由を聞いてみた。大抵の奴らは先に自分達からおべんちゃらを使ってべらべら喋るから、俺はそれまで自分から聞いたことがなかったんだ。
リーダーはいつも「うちに来てほしい」の一言を傷のついたレコードみたいに繰り返すだけだった。朴訥なリーダーらしいっちゃらしいが、当時は本気でバカなのか?と思ってたぜ。
──あっ、今のリーダーには言うなよ。
……で、理由を聞いてみたら「凄腕の殺し屋がいると聞かされた。俺はお前をそう評価した人間を信頼している」だとよ。
つまりはリーダーは俺のことなんか端から凄いとか思ってなかったってことだ。
それを聞いて何だか毒気が抜かれちまってよ。OKして入ったんだ。
──ああ、察しの通りだ。俺のところにリーダーをやったのはパンチェッタだよ。
加入して暫くした頃、パンチェッタと二人になった時にたまたま聞いてみたんだ。「どうして俺を誘う役をアイツに任せたのか」ってな。
パンチェッタは笑って「リーゾが一番適任だと判断した。あれは無口だろう。余計なことを言わないのがあれの良いところだ」って言うもんだから、つい「お喋りで悪かったな」って悪たれをつくとパンチェッタは大口開けてゲラゲラと笑ってよォ……。
くだらねぇだろ?全部パンチェッタに見越されてたってワケ。
黙ってりゃ息を飲むほどのベッラだ。金髪に青い目で。ルネッサンスの絵に出てくるような美人だった。
それが大口開けて笑うんだぜ?それが俺には可笑しくてしょうがなかった。見ていて気持ちが良い程豪快に笑うんだよな。
──珍しい?どういう意味だコラ。
パンチェッタは女だが仕事ではいつも冷静的で感情的になることもねぇし、俺の能力をちゃんと評価してくれてた。良い女だったぜ。
──姉?ああ、確かにな。でもみんな、あー……メンバーはってことだが、パンチェッタを女として見てたんじゃあないか?
あんな良い女、そうそういねぇからなァ。
──俺もか?って?……煩ぇな。俺のことはどうでもいいだろうがよ。もういねぇんだ。
このイルーゾォが認めてやったって言うのによォ……クソ。嫌なこと思い出しちまったじゃあねぇか。


あなたの悲しみになれるまで



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