『火拳のエースが捕まったら、マリンフォードで海軍対白ひげ海賊団プラスその傘下たちとの頂上戦争になるんですよ、色々あって、世界の平和がほうかいして、そして私の安全な暮らしがおびやかされるんです、でもそれは嫌なのでどうにかしたいけど私のじつりょくじゃどうしようもないのでどうしようかと思っているのです』

『…名前ちゃん、それ、本気?』

『ちゃん付け、いやっていいましたー。これを機にやめてくださいー』

『…酔ってるの?』

『はい、酔ってます。酔わせたのはクザンたいしょーのくせに分かり切ったこと聞かないでください』

『――続きは?』

『つづき?つづきですか?そうですねー、せんごく元帥がおやめになって、がーぷさんも引退して、………クザンたいしょーは、サカズキたいしょおに、……ああ、そうだ、クザンたいしょうの、あし………』

『…あし?俺の足が、どうかした?』

『ん…クザンたいしょー、くざんたいしょーがけがするのは、やです…』

『………ちょ、その辺もっと詳しく』

『きゃめる…うふふふふー…』

『ちょ、キャメルって誰?何?名前ちゃん?名前、ちょっと』

こ の 記 憶 は 何 だ 。
ええっとー、あれー、二日酔いのせいかな、幻覚が見えるぞー?

「ん…あ、おはよう名前ちゃん」

何故ベッドの上、しかもこんな間近に、私を抱き込んでいる上司がいるのだろう。ものすごく現実逃避して二度寝がしたくなった名前ではあったが、がんがんと痛む頭を抑えながらどうにか身を起こした。ソファなら何も問題視することは無いが、ベッドで隣にいるとなると話は別だ。まさか致したとかそんな訳は。いやしかし仮にも男と女だ、何があるか分かったもんじゃない。

「おはようございますクザン大将。単刀直入にお伺いしますが、未遂ですか否ですか」

「あー…覚えてねェの?」

ベッドの上、頭だけを起こしたクザンは眠たげな目を開くと、にやりと笑って逆に問い返してきた。その表情をじぃと見詰める。生憎名前は飲んでも記憶が飛ばない方の人間である。何となく色々べらべら喋ったことは覚えているが、致した記憶は無い。加えてクザンのこの表情。

「…未遂ですか、良かったです」

「心底ほっとされると流石に悔しいもんだなァ。…ていうか記憶はあるわけね」

「……………エート、私昨晩のこと何も覚えて無いのですが、ご迷惑お掛けしてすみませんクザン大将。とりあえず全ては酒の席での過ちということで水に流しましょう」

「清々しいくらいの誤魔化しようだなァ」

ふ、と笑ったクザンに、名前は溜息を吐いた。

話題は、当然ながら、あの話が嘘か真かということに移った。

「いやぁ、どっちかなァとは思ってたんだけど。名前ちゃんの反応見てる限りどうも本当っぽいよね」

「………いやいやいや、普通に考えて酔っぱらいの戯れ言でしょう。あんまり思い出したくないですけど、あんな醜態晒すくらい酔ったんですから、…私がどうかしてたんですよ」

「ああうん、それ聞いて更に真実味増したわ。普通酔っぱらいの戯れ言なら翌日必死になって取り消したりしないよね」

「えええー…言い掛かりですよそれ…」

二日酔いで頭はがんがん痛む。早急にこの状況を何とかしないと色々まずいのは理解できるのだが、如何せんまだ頭が回らない。ぐるぐると巡る取り留めもない思考の中、名前は、あることを思いついた。多分理性が万全な状態であったならば試しすらしないような思いつきではあったが、現状では何故かそれが一番良い案のように思えたのだから酔いというのは恐ろしい。

そうだ確かこの人の掲げる正義はだらけきった正義であって、赤犬のような絶対的なものではないのだ。じゃあ味方に引き込んでしまえばいい。幸い悪い感情は持たれていないようだし。というかそもそもたかが文官の名前にエース奪還とか戦争回避とか大それた事ができるわけは無いのだ、初めから。誰かを味方に付ける必要がある。それなりに強くてマグマグの実にも対抗できるような誰かを。

「………クザン大将。今から、本当はものすごく不本意なのですがちょっと諸事情ありましてどうしようもないので、致し方なくですがあなたを陥落させてみようと思うので、おとされてください」

「…………は?」

「…今から口説くので、私におとされてください」

「そんな口説き文句初めて聞いたわ。…もうちょっと可愛く口説いてくれたら考えないこともないけど?」

その一言に、名前は僅かばかり間を置くと、ふと俯いた。そして、その状態からの上目遣いプラス潤ませた目でクザンを見詰める。

「………クザン大将、……………クザン、さん。私のお願い、聞いてくれますか…?」

「おお…(思ったよりこれは…)」

自身が女でありながら女の子が大好きである故に名前は当然女の子の魅力を誰よりも分かっているしいざそれを武器に使うとなれば誰よりも使い方をよく知っていて当然なのである。どんな仕草をしたら可愛いか。どんな声を出せば魅力を引き出せるか。

そして結論から言うと、クザンは。


祥子
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