小人さんたちが居なくなって数日が経った。小鬼たちは襲ってこないけど、時々目が合うと本当に怖いから止めて欲しい。裸でこうもうろうろされると、何というかこう説明できない恐怖に襲われる。そう、あれだ。精神錯乱者に囲まれたみたいな。※そんな経験はありません。

あの後暇すぎてちょっと壁に近付いてみたりしたけど、一寸法師さんが怖くてそこまで近くには行かなかった。あんなにちっちゃいのを本気で怖がるなんてどうかしてると思うけどなんかあの人には従っておいた方がいい気がする。
代わりに私は何とかスーツケースを探し出したよ!ぐっじょぶ私!

「あー…おにぎりうめー…」

六個も食えるか!と思ってたけど助かった。お母さんありがとう。じゃないと私餓死してたよきっと。

「…あ、雨…」

上を見上げると、分厚い雲の向こうからぽつりぽつりと雨が落ちてきていた。私の体が大きいせいか、雨粒までとても小さく感じる。けれど濡れるのは嫌なので折り畳み傘を取り出して開いた。

「小人さん、これ見たらどんな反応するかなー」

特にあの茶髪メガネの人とか。奇声を発する姿が想像できる。あれ、おかしいな。ちょっとしか関わってないし、しかも夢の登場人物なのに。どうしてこんなに鮮明に思い出せるんだろう。

「………お母さん、お父さん」

夢ではないということに、本当はもうとっくに気付いていた。夢ならこんなにお腹は空かない。夢ならかさぶたはできない。夢ならお風呂に入れなくて髪が痒くなったりしない。

「さびしい、な…」

呟くといっそう寂しくなった。だけどどうこうできる訳もないから、傘をぎゅっと抱き締めて、震える体をひたすら押さえ込んだ。ふわりとマフラーのやわらかさを感じる。これを巻いてくれたお母さんの手を思い出すと堪える間もなく涙が出た。

夜は暗いし、風は冷たい。正直こんなにも暗い夜は体験したことが無かった。星と月が異様に明るくて初めは感動したけど、今日は曇りだから本当に真っ暗だ。それにやはり街明かりがないなんて初めての状況で、電灯どころか建造物も何もないのだと思うと体の内側からぞっとするような恐怖が這い上がってきた。

「こわい、よ…」

寂しくて怖くて、気が狂いそうだ。昨日までは体育座りで眠っていたけれど、雨が降ってしまっては地面に座り込むこともできない。暖かいベッドを恋しく思いながら、私はスーツケースにもたれて身を縮めた。

目を閉じると、脳裏には父と母と、なぜかメガネの人が浮かんできた。それからうっすらとだけど握手をした金髪の人と、それから一寸法師さんも。

正体不明の世界にて
(安らげるのは誰の隣だろう)


祥子
「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -