「で、上層部を黙らせたとしてどこであいつを飼うつもりだ?」
端的なリヴァイの言葉に、エルヴィンは少しだけ口の端を持ち上げて静かに言った。
「旧本部跡で、彼女を“保護”するつもりだ」
リヴァイは保護という言葉にはっと嘲笑を漏らした。そんな生ぬるい扱いで上の奴らが納得するはずはない。こちら側が完全に優位にあると知らしめなければ、臆病な彼らはこちらからの接触すら禁ずるか、または駆除を求めてくるだろう。そもそも知能あるあの巨体に勝てるかどうかはリヴァイにとて分からないけれど。
「彼女の安全性に関してはリヴァイ、お前が保証してやれ」
「何だ?うなじでも削いで見せりゃいいか?」
「…うなじを削いだくらいじゃ死なないんじゃないかな、彼女」
会話に横入ったのはハンジだった。巨人研究者を名乗るだけあって、細かく観察はしていたらしい。
「大きすぎるし、怪我は治癒していなかった。これが良いのか悪いのか分からないけど、ともかくうなじを削いだだけじゃ死なないだろうね。失血させるのもありだけど、めんどくさそうだ」
確かにあの巨体では人間一人分の肉を失ったくらいでは死には至るまい。何より、一度は友好的な接触を図ることに成功した相手である。殺してしまうのは、可能かどうかは置いておくにしてもあまりにも勿体ない。
「…要は彼女の安全性が確認されれば良いんだ」
リヴァイなんかとは出来の違う頭を持つ誰かさんは、悪どい笑みをその顔に浮かべた。何を考えているか知らないが、まあこの男のすることだ、間違いはない。
リヴァイは小さく息を吐いて了承の意を示し、ハンジはメガネの奥の瞳をこれでもかと言わんばかりに輝かせた。
「それじゃあ、良いんだねエルヴィン!」
「ああ、勿論だ。一週間後には再度壁外へ赴く」
「やったあああさっすがエルヴィン!そうと決まれば色々準備しなくちゃね!」
喜ぶハンジの傍で、リヴァイは兵士たちの疲労の具合を考えてまた小さく息を吐いた。
…一週間とは。
「それまでにあいつが消えてなきゃいいがな」
「大丈夫だよ!待っててねって言ったからね!」
それの何がどう大丈夫なのかは理解できなかったが、ハンジの自信満々の言葉にリヴァイはだといいが、とだけ返しておいた。
「ふふふふ、さぁて、あの子が来たら何から調べてあげようか…あぁ、ぞくぞくするなあ!」
待っててね正体不明の君
(寂しがってたりしないかなあ?今行くからね!)
祥子