何が起きたのかはよく分からないけれど、私はとりあえず草原の中を歩いていた。スーツケースは置いていく気になれなくて一緒に持ってきている。
「…夢、なのかな?」
でもそうだとしたら私今玄関先で眠っちゃってるわけだよね。うわー恥ずかしい。早く起こしてよお母さん。
「それにしてもつまんない夢だなー。何か出てこいよ」
ただ延々と変わらない景色を見るだけなんて。どうせ夢なら何か起こればいいのに。
…なんて考えていた私を殴ってやりたい。平穏に勝るものなんて無いですねやっぱり。ただいま、絶賛追いかけっこ中。逃げてるのは私で、追いかけているのは…何て言えばいいのかな、小鬼?私の腰に届かないくらいのサイズのやつから肩くらいのやつまで色々いるけど、私はそいつらの名称を知らない。形は一応人間だけどまずサイズがおかしいし、そして何より裸なのだ。あれを人間と認めたら私は何か大切なものを失ってしまう気がする。しかもそいつらは何故か私に噛み付いてきやがったのだ。
スーツケースなんてもうほっぽり出してきてしまった。追いかけられる夢っていうのはよく聞くけど、どういう時に見るんだっけ?罪悪感を抱いている時?どうでもいいけど、早く覚めて。一刻も早く目覚めて私。
「…っ、は、もう…何なのこいつら!」
全速力で走れば逃げられないこともないのだけど、疲れて速度を緩めるとすぐに追い付かれてしまうものだから止まれない。もう疲れた。埒が明かない。
本当は触れるのも嫌だけど、そんなことは言ってられないらしい。
「は・な・れ・ろぉっ!」
膝下サイズの小鬼を蹴り飛ばす。ちょうど蹴りやすい所にいるお前が悪い。
ああもう、どれくらい走ってるんだろう。スーツケースを取りに行きたいのに。
そんなことを考えながら走っていると、ふと足元に小さな家がたくさん並んでいるのを見つけた。家は家だけれど小人の家だ。どれもこれもおもちゃみたいなミニチュアサイズで、うっかりすると踏み潰してしまいそう。どうやらここは小人の町らしい。壊してしまうのも忍びなくて、何とか踏まないように走っている時だった。
びゅん、と足元を何かが横切った。
リアル鬼ごっこ
(捕まっても終わらないんだけどどうしたらいい?)
祥子