上位10人の名前が次々と呼ばれていく中で、私は心臓に当てた拳を力いっぱい握りしめた。前に立つ10人の背中は優秀なだけあってとても逞しく見える。その中にはエレンやミカサ、マルコの姿もあって、皆が離れていってしまったような気がして寂しくなった。私は、10人の中に入ることはできなかった。
解散式の夜とは思えないほど、食堂は随分と騒がしい。もっとしんみりとした空気になると思っていた私はどこか居心地の悪さを感じていた。今日で最後。みんなにとっては厳しい訓練にさよならできるからとても良い日なんだろう。でも私は、マルコと離れるのが悲しかった。10番以内に入れなかった私は憲兵団にはいけない。もともとエレンたちと一緒に調査兵団に入ると決めていたけれど、やっぱり寂しい。
皆が楽しそうに食事をする中で、私ひとりだけ涙を流した。いろんな気持ちがあった。皆と離れるさみしさと、憲兵団にいけない悔しさ。私だって、それなりに努力した。エレンたちに追いつけるように必死に頑張った。でも結果としては、私は駄目だった。マルコはきっと憲兵団に行ってしまう。それを止めることは出来ない。私にもマルコにも、生きる権利はあるのだから。
「名前、そんなに泣かないで」
マルコはあやすように頭を撫でてくれるけど、私の涙は止まらない。周りから私たちを冷やかす声が聞こえるけど、やっぱり止まらない。マルコを困らせることは分かっているし、最後くらい笑顔で別れたいと思っている。でもそれができるほど私は大人じゃなくて、自分でも情けなく思う。
ねえマルコ。あなたは、私が好いていることを知らないんだよね。こうして頭を撫でてもらうのが前から好きだった。今もこうしていられるなら、泣き止まなくてもいいと思う自分がいるの。
もし、もし私が、好きだって言ったら。僕もって、言ってくれる?それとも、いつもみたいに困ったように笑うのかな。マルコは優しいから、きっと跳ね除けたりはしない。でも私は、その優しさに甘えることも出来ない。
「名前、約束しよう」
優しく耳元で囁いてくれるのは今までと変わらない。それが嬉しくもあって、悲しくもあった。それでも彼と向き合わなければ、そう思って私はぐしゃぐしゃの顔をあげた。
「僕たちはこれからもずっと、友達だよ」
私の涙を拭って、おでこをくっつけて、笑う。キスが出来そうなほど近くにいるのに、マルコはしてくれない。涙がまたはらりと落ちた。
マルコ、好き。私、マルコが好きなの。
声に出してしまいたいのに喉につっかえる。それを言ってしまえば、行かないでと、言葉が漏れてしまいそうで。
「………うん」
頷いたら、マルコは嬉しそうに笑った。
食堂を出たら冷たい風が身を包んだ。熱くなった目元に染みて、少し痛い。明後日には所属兵科を決めて、私は調査兵団に、マルコは憲兵団に行く。
「結局、みんな調査兵団だね」
幼馴染四人で集まって、話し合ったのは未来のこと。エレンは反対したけど、私もアルミンもミカサも、調査兵団に行くことを決めた。巨人と戦って、外の世界に行くために。そんな夢も懐かしく感じた。
「お前、ほんとにいいのか?駐屯兵団から憲兵に行くことだって出来るんだぞ?」
「いいの。こうなったら、最後までみんなについていく」
足でまといになるかもしれないし、最初の壁外調査で死んでしまうかもしれない。それでも私は、皆と一緒に調査兵団で頑張るんだ。マルコが内地で安全に暮らせるように、巨人を駆逐してやるんだ。マルコが幸せになってくれるなら、私はそれで……
「名前、また泣いてる」
「うるさい…」
顔を見られたくなくて俯いたら、ミカサは頭を撫でてくれた。その手にマルコを思い出して、私は少しだけ泣いた。
愛子