寒さは日ごと増していって、昨日ついには雪が降っていた。
冷えた手を互いのうなじにくっつけ合ってきゃきゃー騒いでいるハンナとフランツの声がやたら耳について、僕は溜め息をついた。
最近お前よく溜め息つくよな、と指摘してきたのはジャンだっけ。それともエレン?そんなことはどうでもいいけど、溜め息が増えた理由に僕は気付いてしまったのだ。
僕は名前に恋をしている。叶うとは思えないから溜め息が増えた。
「マールコっ」
ぼーっとしていたところを不意にうなじを襲った冷たさに、僕はうわっと間抜けな声をあげて肩を跳ねさせた。鼻の頭を赤くさせながら、びっくりした?と悪戯っぽく笑って僕を覗き込んだのは名前だった。途端に鼓動が早くなって、頬が熱くなる。
「っ、名前?びっくりしたよ、急にどうしたの」
「手洗ったら冷たくなっちゃって。マルコあったかそうだったからつい」
そう言いながら僕の隣に座った名前は、再びその白くて小さな手を僕の方へ伸ばした。こんなに寒いのに、名前の手はとても心地よかった。
どうしてだろう。
「マルコ、だいじょうぶ?あったかいを通り越して……あつい、よ?」
ああ、ドキドキし過ぎて、死にそう。
――――そうか、僕が熱いから、名前の手が気持ち良いんだ。
自然と密着している体と、キスでもしてしまえそうなほど近い顔と顔。
「…マルコ?」
心臓がばくばくと鳴って、耳まで熱くなっているのが自分でも分かる。そのくせ、手だけは緊張のし過ぎで冷たく強張っていた。
――――ねえ、何で僕の隣に座ったの?うぬぼれていいの?少しくらい、僕に気があるって。
「名前も、あったかそうだね」
ほんのりと赤みの差した首筋はとてもやわらかそうで、真っ白で。触れたら雪の結晶のように溶けてしまうだろうか。それともその熱を僕の手に分けてくれたりするのだろうか。
「…本当に今日は、寒いね」
触れる為の口実をください(ちょ、マルコつめたい!)
(仕返しだよ、さっきの)
祥子
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確かに恋だった