※ちょっと汚いです。





名前という名前であるらしいその巨人は、稀に見る図体の割に酷く小心者だ。本気で反撃をすれば勝てない訳が無いだろうに、幾らリヴァイに攻撃されても無抵抗だった。

だから、まさか、今更逃走を図ることなど無いだろうと高を括っていたのだが。

「……着衣の巨人が、逃亡だと?」

その報告を受けた時、リヴァイの思考は一瞬停止した。起き抜けの頭で色々理由を考えてみたが何も浮かばない。というかまだ日も昇りきらない時刻である。一体あいつは何をトチ狂ったのだろうか。

「その、申し訳ありません…追跡しようとすると凄い勢いで走り去ってしまい…」

「…………どの方角へ逃げた?」

見張りの兵士が真っ青な顔をしながら告げた答えに、リヴァイは思い切り眉間に皺を寄せた。

それは、壁のある方角だった。





「名前が逃げたんだって!!?」

「…朝っぱらからうるせぇ。声落とせ、クソ眼鏡」

「何でそんなに呑気にしてられるんだリヴァイ!私の愛しの名前が逃げたっていうのに!」

「お前のじゃなくて調査兵団の、だろうが。大体あいつならもう…」

“あ、はんじ!”

時刻は早朝六時。多くの兵士が起床しているとはいえ、活動時間とは程遠い。そんな中半狂乱で叫ぶハンジと、ハンジを見つけて心なしか嬉しそうな顔をしている名前に、リヴァイは思い切り舌打ちをした。リヴァイなど今朝は四時には叩き起こされたのだ。それもこれも名前のせいで。

「名前!良かった無事だったんだね!何で家出なんかしたの?不満があるならどうしてもっと早く言ってくれなかったんだ、私とあなたの仲だろう!」

“はんじ、怒ってる?…りばいは…怒ってるよね、多分”

「そんなしょぼくれた顔しないでよ、名前。別に私は怒ってるんじゃないんだよ。ただどうして家出なんてしたのか、理由を」

「言える訳あるか馬鹿。こいつは単にクソしに行ってただけだ」

そう、二重の意味で言える訳が無い。生理現象だから仕方の無いことではあるが、他人には見られたく無い行為だろう。途中で何となく察したリヴァイは深追いはしなかった。流石に壁外に出られたのには焦ったが、文化を持つのなら羞恥心だって持っているに違いないのだ。例え言葉が通じたとしても言える訳が無いだろう。

「な…何だって!?」

「ああ゛?だからクソしてたっつってんだろ。何回も言わせんじゃねぇよ。流石に壁外にまでクソしに行くとは思わなかったがな」

「何でそんなこと、私のいない所で!どうせならじっくり観察したかったのに…!よし、明日の朝は私と一緒に行こうね名前!」

リヴァイはどん引いたが、言葉を理解していない名前はにこにこと笑っているばかり。

この一件でリヴァイは、ハンジの魔の手からこの小心者の巨人を守るのは俺の仕事になりそうだ、と確信したのであった。

巨人だって女の子
(流石に止めてやれ…世を儚んで自殺でもしたらどうする)
(解剖するに決まってるだろう!)


祥子
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