ひとつ分かったこと。この世界の人たちはとても小さくて、私がとても気を付けてあげなければすぐ潰れてしまうのだということ。

そしてもうひとつ分かったこと。私はどうやら、とてもとても―――大きすぎるくらいに大きいのだということ。

「………どこで寝たらいいんだろう、私」

ハンジの質問攻めから解放されたときにはもう日が上っていたが、正直徹夜明けで活動するのは辛い。ということで軽く休眠を取ろうと思ったはいいが、何せこの巨体である。当然客間のベッドを借りる、という訳にもいかなかった。目を擦りながら困り果てていた名前に声を掛けてくれたのは目つきが鋭い方の一寸法師だった。

“おいデカブツ、ついてこい”

仕草からしてついてこいと言っているのだろうが、判断は付かない。一寸法師はそのままくるりと踵を返してしまったので、慌ててその後をついて行く。すると、庭とも荒れ地ともつかぬ少し開けた場所に着いた。燦々と日が照っている。木陰は涼しそうだが、当然名前の入れるような陰は無い。

「……あ、野宿な感じですか」

ですよねー。せめて屋内に入りたかったけれど、そんなこと言える訳も無い。言う手段も無いのだから。

じっとこちらを睨み付けている一寸法師の無言の圧力が怖すぎて名前は迅速かつなるべくそっとした動作でその場に座り込んだ。できるだけ木に密着してみるけれど、つま先くらいしか陰には入らない。…日射病とかにならないかな。大丈夫かな。上着脱いで被っておこう。

“………日差しが強いか?まぁ仕方無ぇだろう。…明日は巨大樹の森まで連れて行く。今日はそこで寝ろ”

「あ………そういえば、一寸法師さんのお名前て何なんだろう」

“あ?文句でもあんのか”

お互いにお互いの言葉で喋ってみるが、当然通じているわけでは無い。しかしこの先ずっと一寸法師と呼ぶのも不便だ。名前というのはコミュニケーションの基本中の基本でもあるし。

「うーん…どうやったら伝わるかな…。……………私は、名前、です。あの人は、ハンジ。…あなたは?」

“何言ってんのかさっぱりだな。ガキはさっさとクソして寝ろ”

「……ハンジ。……名前。…あなたは?」

両手で○の形を作って目の所にあて、眼鏡を示してハンジの名を呼ぶ。次は自分の胸に指を差し、自分の名を呼ぶ。最後に一寸法師を指さして首を傾げた。

“それは眼鏡のつもりなのか?何がしてぇんだ…。…………名前、教えろってか?”

「…伝わらないかあ。名前、知りたいんだけどな…」

ハンジはまだ動作も表情もいちいち大きいから何となく通じ合えるが、一寸法師はずっと仏頂面だし、ハンジよりも更に小さいので全く何を考えているか分からない。諦めてしゃがみ込もうとしたとき、一寸法師がぶっきらぼうにひとつの単語を囁くのが聞こえた。

“リヴァイだ”

「…!今もしかして名前言った?えっと……ばい?ばい、かな」

“誰がバイだ削ぐぞてめェ。…リヴァイだ。リ、ヴァ、イ”

「り、ば、い?」

繰り返して確認してみると、一寸法師改めりばいがフン、と鼻を鳴らした。良かった。通じた。…嬉しいかもしれない。

「ありがとう、りばい…!」

呼び捨てにするのは何となく恐ろしいが、やっぱりこちらの敬称の付け方を知らないのでそう呼ばせてもらう。りばいは軽く首を回すと、針と糸を使って去ってしまった。ぶっきらぼうな人だけど、きちんと名前を教えてくれた。

もうひとつ、分かったこと。はんじは良い人だけれど、少し…どころではなく変わっている人。そして、りばいはぶっきらぼうに見えるけれど、結構良い人なのだということ。

りばいは去ってしまったけれど、近くには人がいた。恐らく見張られているのだろう。けれどそれでも少し気分は浮上していた。修学旅行に行くはずがこんな意味不明な世界に来てしまって、小さな裸のおじさんが居るわ、もっと小さな人間が居るわ、はたまたその小人さんたちに蹴られるわで散々だったけれど。でも、状況は最悪よりはきっとずっとマシなのだろうと、そう思えば少しは気が楽になるのだった。

少しずつ分かっていく
(眼鏡…はんじ…一寸法師…りばい…)
(…………寝言、なのか?)


祥子
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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