金髪に上下スーツで煙草を吸っている男が隣に居ても、近所の人達は特に気にした様子は無かった。名前とその父親の境遇を知っているからかもしれない。
ぽつりぽつりと他愛のない話をしながら二人並んで道を歩く。
「ふぅん、サンジは海賊なんだネ」
「あぁ。…怖がるかい?」
「いや、別ニ?」
知ってるし、というのは言わずに胸にしまっておく。ちなみに今は、美味しい夕食の為に商店街に買い出しに来ている。二人で。一人で行ってくるから良いと言ったのに、レディにそんなこと!という訳で一緒に来ることになった。道中もさり気なくエスコートしてくれるサンジに思わず笑ってしまった。性別がばれた時が恐ろしい。
「あ、そこの肉屋見ていいかい?」
「うん、全部サンジに任せるヨ」
「食べられないものとかは?」
「んー、何でも食べるヨ。多分サンジの作ったものなら何でも美味しいデショ?」
だってサンジといえば凄腕のコックなのだから。
「…名前ちゃん…!」
「あ、あの肉半額だっテ」
感動したようにふるふると震えているサンジは放っておいて、肉屋へ入る。サンジは途端に真剣な料理人の目つきになって、慣れた手つきで肉を吟味しだした。お肉なんて買うの久し振りだ。本当に今日の夕食が楽しみである。
他、八百屋や魚屋、煙草屋にもついでに寄ってから家へ帰った。
夕飯は、生まれて初めてこんなに美味いものを食ったんじゃないかと思うくらい豪勢で美味しくて何だかもういっそ泣きたくなった。
「美味しいかい?」
「………うん」
さっき母親不在の話をしたからか何なのか、サンジは泣きそうな俺を見てふっと優しく笑うと、頭をぽんぽんと撫でてくれた。くそ、何たる不覚。
「………サンジ、もしかして煙草吸いたイ?」
「ああ、いや…」
洗い物までやってもらってしまい、食後の一服の間。何となくそわそわと手をポケットに入れたり出したりしているサンジを見て、俺はサンジが極度のヘビースモーカーであったことを思い出した。
「いいヨ、吸っても。うち、おやじ…父さんも吸うカラ、灰皿もあるし。さっき煙草買ったデショ?」
サンジは眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。しかし遠慮したりはせずに煙草を吸い出したから、やはり我慢していたらしい。
「…そういえば名前ちゃん、その…良いのかい?知らない男なんか家にあげてて、お父さんは…」
「あー、いいヨいいヨ。父さんあんまり帰っテ来ないし、父さんもしょっちゅう知らない男連れ込んでルから」
その言葉にサンジはものすごく微妙な顔をした。だがどうやら深くは突っ込まない事にしたらしく、甲斐甲斐しくテーブルの上を片付けだした。賢明だ。
「何から何までゴメンね」
「いや、いいんだ。名前ちゃんはゆっくりしててくれよ」
「んー、じゃあお言葉に甘えテ勉強でもしようカナ。サンジも好きにしてテ」
きっとサンジはいいお嫁さんになるな、なんて思いながら綺麗になったテーブルの上に勉強道具を広げる。サンジはどうやらまだ台所で何かやるらしい。
祥子