ただただ平凡な毎日が過ぎていく。
誰もが望んだ平和と笑顔、思春期の時期が近付く度に絶えない他愛もない世間話。
廊下を駆け巡るのは上履きの忙しない足音と雑音混じりの話し声。
「ふぅん、前より大分上手くなったじゃない」
『ホントか?』
「僕は嘘なんかつかない、それに君に対してついたとしても見破られるのがオチだ。
ならそんな下らない嘘はつかないよ」
『何か、恭弥から褒められるのは久し振りな気がしてならないな。いつも事ある毎に馬鹿とか阿呆とかしか言わないし』
「それは君が馬鹿で阿呆なお人好しだからだよ、偶には毒でも吐けば見直すけど」
『恭弥は毒を吐き過ぎなんだってば…皆未だに敬語なんだぞ!』
「後一週間と12時間は敬語の毎日が過ぎるだろうね、そもそも海人が許すから僕が動いてるだけで、君がもう少しマシな提案をしていれば口出しなんかしない」
『俺は別に体罰とかどうでもいいんだってば、皆が仲良く今まで通りにしてくれるなら構わない。』
「そうやって生温いお陰で君は一生消えない傷を背負った、少しは厳しく生きていかないと今度は怪我だけじゃ済まない。
死ぬかもしれないんだよ」
ムスっと鋭い目つきで目の前に座る海人を睨んだ、返す言葉が無いのか口ごもり怯む海人。
手元に有ったポーチを膝の上に置き直すと小さな溜息、それを見て雲雀はティーカップを皿に置く。
「君はとても慈悲深い、卑怯な悪党ですら終いには許してしまう。
だけど傷つくのは相手じゃない、君自身だ。ボロボロになって、使い古された雑巾みたいになって最期には自ら首を絞めて死ぬ事になりかねない。」
『そ、それは…』
「今回は偶々運がよかっただけ、でも奇跡はそう易々と起きるものじゃない。
甘い考えじゃ此の世を生き残ってはいけないって事、解った?」
『恭弥の言い分は解るよ、言いたい事も伝わってくる――けど俺はそう思わない。
奇麗事とか言われても仕方ないとは思う、でもそれで相手が改心してくれるなら、道を踏み外さないでくれるなら嬉しいし…』
「はあ…呆れた」
『うぅ…』
雲雀の圧力が感じられる言葉に身を小さくする、しょぼんと肩が落ちるのが見て取れる。
「(それが君の長所でもある――…)」
それでもあんな苦しい思いはしたくない
互いの命を削り合い
傷付き
どす黒く膨大な闇になってゆく
手の届かない存在になってしまう、もう二度とお茶を飲む事も出来なくなる。
他愛もない話も、馬鹿みたいに笑える話も、苦しくなるみたいな話も。
『恭弥は難しく考えすぎなんだよ』
「僕は君の長所が短所にならない様に注意を促してるだけ」
『ちぇ…』
拗ねた表情を浮かべて余所を向く、宛らお菓子を買って貰えずに機嫌が悪くなった子供の様だ。
それを見て笑顔がクスリと浮かぶのだから最近の僕は可笑しい、少し前に誰かから「母親みたい」と言われたが存外的を射ているのかもしれない。
海人を前にするとどうしてか、構わずにはいられないのだ。何と言うか、まあ子供みたいだからかな?
コンコン!
不意にドアが叩かれる、遠慮がちに開けられた隙間からよく見るトゲトゲ頭が顔を出した。
その後ろからは言い争いをしているのか怒鳴り声が聞こえる、凄く耳障りだ。不愉快。
『あ、綱吉じゃん!どうしたの?』
「放課後に特売のスーパー行くから付いて来てって言ったの、もう時間だけど…」
『マジで!!?』
「後10分ぐらいかな」
『ちょっヤバイ!今晩のおかず予定なんだよ!!』
バタバタと帰り支度をする海人、焦りすぎてポーチを床に落とすわ筆箱の中身をぶちまけるわ大惨事。
靴ひもを踏み蹴躓きソファーに顔面を強打、鼻から鼻血を出しながら応接室を飛び出した。
ずるっと嫌な音が一回した後に雄叫びが階段から聞こえてきた、急いでツナ達が駆けて行く。
それを唖然として見送った雲雀は、回数を忘れた溜息をついたのだった――…。
◇
『つ、疲れたぁ……』
「海人って主婦を仕事に出来そうだよね」
『え、そう?』
「オレ達助太刀に行った意味無いと思う、うん。」
「確かに海人はいい主婦になりそうだよな!オレも何発か叩かれて怯んだってのにすげぇよ!!」
『そ、そんなに褒めたって何も出ねぇぞ』
「って言いながら袋の中漁ってんじゃねーかよ、言葉と身体の息がバラバラだぞ」
獄寺が煙草に火をつけながらそう言うとお目当ての物が見つかったのか、海人は袋を破くと飴を二つずつ3人に渡した。
ツナと山本は受け取ってくれたが、獄寺は「要らねぇよ!」と受け取りを拒否。
『照れんなよ!』と投げつけた飴玉が目にヒットし、獄寺が苦しんでいる事を海人は知らない。
「「((無邪気過ぎるのも凶器だよなぁ…))」」
『あ、そうだ3人共さ家に寄って行かね?お茶ぐらい出すし』
「なら久し振りにゲームでもすっか!」
『おっ武にしてはいい案じゃん!乗った!!』
「オレ最近新しいゲーム買ってさ、CMでやってるヤツ」
「え、若しかして8000円するパーティーゲーム?!」
『8000円ッ!?』
「そうそう、でもあれ元が取れる程楽しいんだぜ!!親父にせがんで小遣い前借りして貰った」
「あれ、そう言えば獄寺君は?」
「ん?あ、そう言えばいねぇな」
「――あ、獄寺君!」
「…さっきの飴玉か」
『隼人ォお前何うずくまってをだよ!!早く来いってばァ!!』
「いや海人…あの、多分さっき投げた飴玉が結構きてるんじゃないかな…凄い音したし」
『え、マジで?』
「てってめぇ…海人!」
『す、すまん隼人!お前なら受け取れるとばかり…大丈夫か?』
歩み寄り獄寺の肩に触れた時、ドクンと何かが鼓動をして指の先から熱がじわりと溢れた。
痛がっていた獄寺はそれに驚き、海人自身はその言い知れぬ感覚に素早く獄寺から手を離す。
すると同時に熱が引いてゆき、魔法の様に熱さが無くなった。
『…な、』
「今のは…何なんだ?」
『わ、解らない…俺、何も…触れただけなのにっ』
気味悪いと顔から血の気が引く2人、すると待たせていた2人から声をかけられて立ち上がる。
『(指先が…)』
まるで心臓を触ったみたいな、否指先自体がひとつの心臓の様に鼓動を紡いだ。
「海人、海人!!」
『え、あ…何?』
「呼んでも返事がねーからよ、何か有ったのか?」
『ううん、平気だよ。なんでもない…』
「ならいいんだけど…あんまり無理しちゃ身体に障るから」
『綱吉は心配し過ぎだって!大丈夫大丈夫!!』
ニコッと穏やかに笑う海人を見てツナと山本は返す様に笑みを浮かべる、だが獄寺も同様にだんまりとして味気ない空気が流れた。
ドクンッ
ドクンっ
鼓動が高鳴る。
「見つけた、見つけたぞ継峰海人ッ!」
ドクン…
ドクン、
「貴様を、お前の化けの皮を剥がしてやる!!」
ドクン
どくん
110521
↑prev next↓