◆prologue


 この世界を裏から支配しようとする魔王が、二つの世界の間に存在した。
 世界を支配せんとする魔王を倒そうとするとある国王、その大陸にいるその魔王は……確かに、この世界を蝕もうとしていた。魔王を滅せんと立ち上がる王子とその一行。
 しかし、その大陸の向こう側では別の、どこか和やかに、平和ボケした世界もあったのだ。

「……過去最高額、なるほどね」

 少女はその壁に貼られたチラシを見るとひとり納得するように笑った。ここは、名もない島である。ただの島としか言いようがない。いつか誰かが「遊戯島」と呼ぶようになってしまったほどの娯楽にあふれた島。この島の持ち主は様々な遊戯を計画し、その収入によって更なる遊戯を行っている。
 そこで最も流行っている施設が、闘技場と呼ばれるものであった。強者達が、剣を、魔法を、知略を尽くして戦いそして賞金を得る。噂を耳にした力自慢は、一度はこの島を夢見て、訪れるものであった。
 しかし、ふらり立ち寄ったその少女はそこに集まる強者を目的としていた。

 黒髪のふわりと軽く風に揺れるショートヘア、その瞳は真昼の鮮やかな空を思い出させるほどに青い。皮の外套を纏い、背中には彼女の細腕に見合わないほどの物々しい雰囲気の大剣が背負われている。
 彼女はとある酒場で吟遊詩人が歌っていた曲を口遊みながらその闘技場のほうへと歩みを進めた。ここなら、あるいは。そう思い、彼女は……闘技場の門を叩いた。

「……俺は一人で十分だと言っている」
「しかし、規則で……」

 中に入ると誰かと受付の係員が揉めているのを少女は確認した。何やら、規則に引っかかり…青い帽子を被った銀髪の……少年。まだ、青年と呼ぶには声が少し高く、早いような、しかし、その予想される年齢よりもよほど年上に見えるその少年は眉を寄せて、諦めようと背を向けかけていた。
 少女は、ちらりと、応募用紙をもう一度確認する。その応募用紙には……「二人一組での参加が条件」と確かに書かれていた。あぁ、なるほど。目の前で揉めている理由も、賞金最高額には納得がいった。しかし、ここで少女は困ることになる。彼女もまたこの大会への参加をしようと受付までやってきたというのだ。目の前の少年のように追い返されてしまうだろう。

「……これは、だいぴーんち」

 そうとは微塵も思っていない様子でその言葉を吐く。
 一人だから参加出来ない?いるではないか、目の前に。少女は、少年の肩をぽん、と馴れ馴れしくたたいた。不意打ちで驚いた少年が振り返る。切れ長の、夕日と海が混じりあったような紫の眼を瞬かせ少女を見た。

「誰だ?」
「うん、うん。……受付のお兄さん、私この人と出るよ。よろしくね?」

少年の質問はまるで無視して彼女は少年が提出した用紙のしたに流れるような達筆で己の名を書く。それと同時にその上に書かれた名前を読んだ。……テリー。

「勝手に何を……」
「私もこの大会に出たいのに、相方がいないの。一匹狼でもここは共闘しない?」

 訝しげに、少女を見るテリーに対して少女はぱちり、小さくウインクしてみせた。

「レアナ。私の名前」

 よろしくね?と無害そうに笑って握手を求める。呆気にとられるテリーの横……受付係りが二人の出場を勝手に受理していた。
 止める間もなく、テリーは何かを言いたそうにしていたが心底嫌そうに溜め息をつくと少女のほうを向き直った。

「俺はテリー、最強の剣を求めて旅をしている」

 よろしくな、とでも言おうとしたらしいが勝手に巻き込まれただけのテリーはその言葉より先を言い出すことが出来ない。レアナが代わりによろしく、と声に出すのは……数秒、明らかな間を置いて。青の瞳に灰を宿して、明らかに動揺したように、彼の姿を見てからだった。

 レアナの左腕にはめられた腕輪の赤い宝石が、怪しく、光った。


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