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「ねえ波江、お願いがあるんだけど」
「嫌よ」
5分程前から振り出した雨を見て電話の意味を理解してわたしはすぐさま拒否した
振り出した時はぽつぽつだったが今は窓を激しく叩いていた
「通り雨よ、すぐ止むわ」
「さすが波江、俺のことわかってるねえ、でも空のことはわかってないみたいだ。気象庁見てみたらこの後ずっと雨降り続けるらしいよ?」
そう言われて携帯を片手にインターネットを開いてみると、確かにそう表示されていた
「...濡れて帰ればいいじゃない」
「やだよ、風邪でも引いたらどうしてくれんの?」
「馬鹿は風邪引かないから安心しなさい」
「とにかく、待ってるから、じゃね」
一方的に臨也はそう告げて通話を切った
わたしはため息をつく
自分勝手な彼に対してじゃなく、今すぐに行こうと考えてしまった自分に対してだ
しかし電話がきてすぐに行くのは自分のプライドが許せないので少し時間が過ぎるのを待つことにした
もう20分は経っただろうか、そろそろ行かないと嫌味を言われる頃合いだろう
きっとわたしが行くまで待っているに違いないのだ、あの男は
わたしは戸締りと火元を確認してから早々に家を出る
そしてマンションを出て力強く降り続いている雨に打たれたとき、ふとわたしの足が止まった
「…そういえば」
場所を聞くのを忘れた気がする、いや気がするじゃなくて聞いてない
どういうことなのだろう、本当に来てほしいなら場所も言わずに切ってしまうものだろうか
少しだけ考えて、とりあえず駅に向かおうと考え、雨が降り注ぐ道に足を入れた
もう外は大分暗い、それに雨と重なって視界がとてつもなく悪い
今更ながら上司に文句の一つでも言いたくなった頃に、前方から黒い人影が近づいてきていた
といってもこの雨の中じゃ誰だって黒い人影になるので特に気にしてなかったのだが、電灯で微かに照らされた顔を見てわたしは声を上げてしまった
「ちょ、」
「...ん」
「何してるのよ...!」
その姿はまさしく彼のものだった
ということは、わたしに来いと命令したにもかかわらず、傘もささずにとぼとぼ帰ってきていたというわけである
わたしは雨の音にまけないくらいの声を出して、自分を雨から守ってくれていた傘を彼の方へと傾ける
「波江じゃないか、遅かったね?」
「あんた、私に電話したんだから大人しくまってなさいよ...こんなに濡れて...馬鹿じゃないの」
「馬鹿はひどいなあ...というか君もかなり濡れてるよ?ほら、傘俺はいいからさ」
やんわりと傘をわたしの方へ戻してくる彼に少しだけムキになってしまい、わたしはまたそれを押し返す
「...人を呼んでおいてその態度はないんじゃない?」
「じゃあ俺の傘は?」
「え?」
わたしははっと自分の手にあるものを見る
それは自分が差している傘のみ
わたしは彼に傘を持って来いと頼まれたはずなのに、わたしはその傘を持って来るのを忘れた、というわけである
「...まさか忘れたの?」
にやにやと笑いながら彼はこちらを伺い見る
わたしは妙に気まずくなってしまってそのまま傘を置いて帰ってやろうかと思ったとき、 彼はわたしは持っていた傘の腕を持って、早く行くよ、と促した
「ちょ、あんたと相合傘なんてお断りよ」
「仕方ないじゃないか、それにこの雨の中こうしてても濡れるだけだよ?」
「......」
わたしはまだ言い返そうとしたがそんなものは無駄だ、と思って彼の言う通りにした
彼との距離が近いのが気になる様な間柄でもないのだが、彼から零れる雫がわたしの肩に落ちてきて、少し申し訳ない気持ちになってしまう
意地を張らずにすぐ迎えにいってやれば良かったか、と
ふうと小さくため息をついたはずなのに聡い彼はそれを聞いてにこにことしながら何やら聞いてきた
笑っている彼にたいしてまたため息をついてわたしは早く家につかないか、とばかり考えていた
(雨はただの口実作り)
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キリ番リクエストでした!
一度消えてしまってから書き直すのに大分時間がかかってしまいました...
それに内容が大分変わってたりしますが気にしない事にします...