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大学生になった火赤とにゃかしくんのおはなし。
火赤は同棲してます。
女体化ではありません。
とってもファンタジーです。



赤い子猫と出会ったはなし




ある初夏の日のことだ。不思議な生き物を拾った。それは動物というにはあまりに人間染みていて、けれどぴょこりと生えたふわふわの赤毛の耳としっぽは紛れもなくけもののもので。猫人間、と表現したらわかりやすいだろうか。サイズはちょうど、小学校に上がるか上がらないかくらいのこどもの背丈。くりくりの猫目は左右で色が違う。誰かにとてもよく似ていると思った。

その生き物は俺の半分くらいの身長しかないくせにやけに生意気で好戦的だった。

「おかね、ちょうだい」

赤い持ち手のこどもサイズのハサミをシャキンと俺の腹部に突きつけながら、その生き物はぎりりと俺を睨んだ。どうやら一丁前にカツアゲをするつもりらしい。

その姿に、先ほど似ていると思った「誰か」の存在が、俺の中で明確に重なった。こんなに小さくも幼くもないし、けものの耳やしっぽだって生えていないけれど、これはそっくりだ。行動とか、態度とか、髪の色とか、いろいろ全部。

「あ、かし…?」

俺のたったひとりの大事な恋人様に。






「…で?」
「お前に似てるって思ったら放っとけなくて、連れて帰ってきた」

結局俺は、赤司にそっくりなその猫人間(仮)を放っておけず、自宅に連れ帰ってきた。その際かなり抵抗され、俺の腕や指には引っ掻き傷や噛み痕がくっきり残っている。

先に帰宅していた赤司は、そんな俺の姿を見た途端しかめっ面になり、冷ややかな瞳で俺を睨んだ。最近は距離の取り方が分かってきたおかげで、赤司がこうして怒りを露わにすることはごく稀なことのなっていた。そのせいで耐性が脆くなっていたらしい、その怒り顔に一瞬ひるんだ俺は、うっかり腕に抱えていた猫人間(仮)を落としてしまった。猫人間(仮)はすとんと軽やかに着地すると、脱兎のごとく部屋の隅に逃げ込み、身を守るように丸くなった。

「そんなに腕を傷だらけにして…あの子、嫌がってたんだろう?」
「そう、だけど…でも家ないって言ってたし、あんなちっこいの野放しにしとくなんて不安だろ?」
「それと君の怪我とは別問題だ。君の手は、バスケをする手なのに…」

酷く不機嫌な声で言いながら、赤司は火神の腕を指でなぞる。ふくれっつらに近い怒り顔はちょっと可愛くもあるのだけれど、俺はそれよりも、赤司の怒りの着火点が微妙にずれていることが気になった。

え、俺なの?俺の心配なの?得体のしれないものを拾ってきたことじゃなくて?

「大丈夫だって、こんなんすぐ治るし。別に緑間みたいに指先の感覚が最重要ってわけでもねーしな」
「……」

ぽむぽむ、と宥めるように赤司の頭を撫でたら、赤司は一層きつく俺を睨みつけたあと、何も言わずにくるりと踵を返した。そしてその足で部屋の隅っこにまあるくなっている猫人間(仮)の傍まで歩いていくと、目線を合わせるようにしゃがみこみ、そっと右手を差し出した。

「火神がすまなかったね。怖かっただろう。おいで?」

きゅっと抱え込まれた膝の隙間から、色違いの瞳がちらりと覗く。伺うような目線は赤司の人となりを測るように忙しなく移動し、その後、迷うように揺らいだ。


「だいじょうぶだから、おいで」

吃驚するくらい優しい声だった。普段の赤司とは全然違う、どこか甘やかすような柔い声。

「…にゃっ…!」

猫人間(仮)が小さく鳴いて赤司に飛びつくのと、それを受け止めて赤司がほわりと笑んだのは、ほとんど数秒の差だったように思う。

ぎゅっとしがみついて赤司の胸に顔をうずめる猫人間(仮)と、それを抱っこする赤司は二人くっつくと本当によく似ていて、火神はおかしな錯覚に陥った。

まるで、母子みたいだ、なんて。

2012/08/14

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