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相容れない関係に関係するための役割について


その日、高尾は珍しく帰りが遅くなり、7限を終えた緑間と待ち合わせて帰宅した。駅から徒歩5分、早足で3分。たどり着いた我が家に電気はついていない。

「なあ真ちゃん、今日征ちゃん遅い日だっけ?」
「いや、確か3限で終わりだったはずだが…」

無言で顔を見合わせて3秒、走り出したのはほぼ同時だった。荷物の多い緑間がやむなくエレベーターを待つ間、身軽な高尾は一段飛ばしで階段を上がる。鍵を開けるのももどかしくて、転がり込むように玄関に飛び込んだ高尾は、靴を乱暴に脱ぎ捨てて寝室へと急いだ。

「征ちゃんッ…!!」

蹴破るようにして開けた寝室の、ひどい荒らされように、高尾は絶句する。シーツは引き摺り下ろされ、開け放されたクローゼットからは雪崩のように服が引っ張り出されている。乱暴に扱われてどこかが破れたのか、枕からは羽毛が飛び出していて、白く降り積もったその羽だらけの床の真ん中に、赤司がぺたりと座り込んでいた。

「征ちゃん、」

呼びかけたら、ゆっくりと視線が高尾に向けられる。ガラス玉みたいな綺麗な瞳から止めどなく涙を流して。

しんたろう、と彼は唇だけで呟いた。音にならないくらいの掠れた声で、緑間を、呼んだ。

ああ、遅かったと高尾は思う。

赤司は時々、こうして癇癪のように感情を爆発させることがあった。元々ひどく不安定なひとだったが、バスケをやらなくなってから、それはますます危うくなったように思う。

赤司がこの状態になってしまったら、高尾はもうどうすることも出来ない。赤司は緑間しか求めていないし、緑間もそこにキセキ以外の人間が立ち入ることを良しとしないのだ。

「っ、高尾!赤司は?!」
「…真ちゃん」

やっとエレベーターが到着したらしい。高尾と同じく転がり込むようにして室内に入ってきた緑間は、室内の酷い惨状に顔を顰め、けれどすぐに赤司の元へ駆け寄った。

「しん、たろ…っ…ーッ」
「大丈夫だ、俺はここにいる。しっかりしろ赤司」
「ふ、ッ、ーっ…ぅー…」

緑間の腕が赤司を掻き抱く。指先で緑間の背を何度もカリカリと引っ掻いて、言葉にならない声を発しながら、思うようにいかない憤りをぶつけるように、赤司は緑間に全身でしがみついた。

「はーあ…」

ドアをそっと閉め、ずるずるとその場にしゃがみ込んで、高尾は隠す気もなくため息を吐く。一緒に暮らしているというのに、時折感じる2人と自分との間の壁に、寂寥感を拭えない。彼らの根底にあるものは、高尾が思っているよりもずっとずっと根深いのだろう。そしてそこに触れることは、高尾にはきっと一生無理だ。

けれど。触れられないから、近づけないから、だからこそ見えるものもある。2人にしたらそのまま共倒れて水底に沈んでいきそうな2人を、何でもない顔をして引っ張り上げて、そうして笑ってやるのが、部外者である高尾に与えられた役目だ。

「しょーがねーから水、用意しといてやるか」

ぱちんと気合を入れ直すように両頬を叩き、高尾は自分に喝を入れて立ち上がると、キッチンへと歩き出した。






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