緑間くんと高尾くんと赤司くんが大学生で、同居しています。赤司くんがとても弱く別人に近いので、設定を読んで無理だと思ったら先に進まない方が良いと思われます。 赤司くん 都内某有名大学に主席で入学。視力の関係でもうバスケはしていない。精神的にかなり不安定で弱く、脆い。緑間くんと高尾くんに寄りかかって生きている。 緑間くん 医学部生。まだ研修にも行っていないのに、赤司のために自分の進む分野を精神科に決めている。不安定な赤司を放っておけず、手元に置いて常に見ていてやりたいと同居を決意した。 高尾くん 赤司くんと高尾くんの生活能力がなさ過ぎて度々通い妻のようにマンションに訪れていたのだが、和成もここに住めばいいという赤司の一言で同居開始。キッチンは高尾の城。 かっこいい赤司くんはどこにもいません。大丈夫でしたらどうぞ 依存が呼ぶ罪滅ぼしについて 6:45 AM. いつものように携帯のアラーム音で目を覚ました緑間は、むくりとベッドから起き上がると、長い睫毛をぱしぱし瞬かせた。次いで、サイドテーブルに置いてある眼鏡をかける。隣で枕を抱えるようにしてうつ伏せに寝ている赤いまんまる頭の持ち主は、先ほどのアラーム音(割と大きい)にも動じず、くうくうと幸せそうな寝息を立てながら夢の中だ。緑間はその身体を引っ張って仰向けにひっくり返してやると、サイドテーブルの側の壁に貼ってある三枚の時間割表に目をやり、今日の赤司のスケジュールを確認した。……よし、午前に講義はない。 それだけ確かめると、緑間は彼が起きないように注意しながらベッドを抜け出し、適当な服に着替えてからリビングダイニングへ向かった。 「あ、真ちゃんおはよー!」 「ああ、おはよう」 ジュウジュウと油の爆ぜる音、肉の焼ける香ばしい香り。カウンターキッチンでベーコンを焼きながらへらっと笑った高尾は、新聞取ってきてあるから、とテーブルの上を指差す。そこにはいくつかのダイレクトメールと昨日取り忘れた夕刊とともに、緑間の購読している新聞と赤司の購読している経済新聞が並べて置いてあった。 「征ちゃんはまだ寝てる?」 「…アラームが鳴ってもぴくりともしないのだよ」 「まあ昨日も遅くまで映画観てたみたいだしなー。あの夜更かし癖もそろそろなんとかしたいんだけど」 赤司は基本的に夜行性だ。朝に弱く、日が暮れていくに連れ、元気になる。昔は朝夜規則正しい生活をしていたのに、バスケから離れた途端この様だ。夜中にトイレに起きた高尾が、目をらんらんとさせながら一人で映画を観ている赤司にぎょっとしたのも、一度や二度ではない。早い時間にベッドへ押し込んでみても、皆が寝静まる頃には起き出して好き勝手やらかしてくれるから、最近では少し諦めかけている。 「はい、朝飯」 新聞を広げながら赤司を憂いていた緑間に、高尾は苦笑しつつモーニングプレートを差し出した。緑間がそれを受け取ると、はかったようにチン、とトースターが鳴る。そしてそのタイミングを見計らったかのように、リビングダイニングと廊下をつなぐドアが開いた。 「…赤司、起きたのか」 「征ちゃんおはよー!」 「ん…」 ぐしぐしと目を擦りながら現れたのはまさしく先ほどまで話題に上がっていた赤司で、緑間は知らず知らずのうちに眉間にぎゅっとシワを寄せた。こくり、と稚い仕草で頷く赤司は、低血圧のせいで寝起きが悪い。 「征ちゃんも朝飯いる?」 もはや返ってくる返答などわかりきっているが、高尾はそれでも一応尋ねてみる。けれどふるふると首を横に振られ、予想通りの返事にあーあ、と心の中で呟いた。赤司はふらふらとソファに倒れ込むと、昨日使ったままにしていた水色のタオルケットをおざなりに引っ被り、すぐにすう、っと寝息を立て始める。 「こりゃまた、面倒な癖が出たかねぇ…」 高尾と緑間はこっそり顔を見合わせ、揃って深いため息を吐いた。 一年の冬にWCで初めての敗北を知ってから、赤司には怖いものが増えた。それは例えば暗闇。例えばひとりきりの空間。置き去りにされるのを恐れるように、なにも見えなくなることを怖がるように、赤司はそれらに拒絶反応を示した。だから今でも寝るときに小さな灯りを落とすことはないし、寝室から誰の気配もなくなってしまえばすぐに悟って、人の気配を探して回る。 『多分これは、俺たちキセキの世代の罪なのだよ』 いつだったか、緑間は高尾にそう言ったことがある。赤司はもともと、不安定なバランスの上で成り立っているいきものだった。けれどその不安定さから更に安定感を奪ったのは、キセキの世代の離別であり、ぐらぐらと今にも倒れそうだったそこに決定打を与えたのは、彼に初めての敗北を与えた誠凛ー黒子のチームだった。 知っていたのに手を離したのは、俺たちだ。崩れてもまた積み直してやればいいと、安直に考えていたのが、きっと甘かったのだ。 崩れてしまったそこは、未だ誰も触れることすら出来ていない。赤司の不安定さは負けたことでより顕著になり、崩れたあとも震え続ける小さな身体を、救ってやることなど誰も出来なかった。 『まるで罪滅ぼしみたいだ』 初めてその話を聞いたとき、高尾はそう言って笑った。けれど、そうかもしれないと切なげな表情を浮かべた緑間を見て、なにも言葉が出なくなった。 きっと、と高尾は思う。きっと、キセキの世代の中で、誰よりも赤司に囚われていたのは緑間だったのだ。鋭さと脆さの混在する危うげな存在から目を離したことを、彼はずっと悔いている。そして、だからこそ自分こそが彼を救い出してやるのだと、勝手に思い込んでいるのだ。 馬鹿げた話だ、と高尾は思う。キセキの世代のやることはいつだって突拍子もなく、誰かを振り回すようにできていた。だけど。 「振り回されてもいっかな、とか、思っちゃうじゃんかよー…」 ぐるぐると袋小路を歩き回るように互いを探す彼らが、第三者としてもどかしくて、哀れで。 手を貸してやりたくなってしまうのだ。 |